第十三章 霊媒師 清水誠

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◆ 『あんた、息子と違ってちゃんとしてるんだな』 確かに。 初めてお爺さんと意見が合ったぞ。 僕はちょっとだけ嬉しく思いながら、早速大和さんにお爺さんの言葉を伝えた。 「大和さん、お爺さんはこう言っています。息子さんと違って大和さんはちゃんとしていますね、と」 それを聞いた大和さんはごくわずかに溜息をついた。 「ん……そうかぁ……私は特別きちんとしている訳ではないんだけどねぇ……まったくもってうちのバカ息子は口が悪いからもう…… そうだ、ねぇエイミー君、私の声は藤田さん達に聞こえるの? 直接お話ししても伝わるのかな? それともエイミー君を通さないと聞こえない?」 「大和さんが話す分には僕を通さなくても大丈夫です。藤田家の皆さんには大和さんの姿も視えてるし、声も普通に聞こえますから」 「そうか、ありがとう。 あの、藤田さん、」 大和さんはまず正面にいるお爺さん、その後にお婆さん、貴子さんの位置に順に視線を動かして、再びお爺さんに戻ってくると、 「先程は誠が失礼いたしました。私の教育の至らなさから、さぞご不快な思いをされた事と存じます。申し訳ございません」 と頭を下げた。 神妙な面持ちの大和さんに女性陣は、藤田家の黒一点お爺さんをチラチラ見ながらブンブンと首を振っている。 それぞれ「ウチのお爺さんも似たようなものだしねぇ」「お父さんに比べたら、まだいい方じゃ……」「爺ちゃんも社長もカッコイイと思うな」とヒソヒソだ。 「うちは誠が幼い頃に母親を亡くし、以来父子家庭としてやってきました。が、どうも男だけの家族というのはガサツでいけません。その影響で誠はすっかり口が悪くなってしまいました。ですが悪気はないのです、どうか許してやってください」 更にグンッと深く頭を下げて、社長の無礼を謝罪する大和さんだったが僕は思う。 あの性格は社長が20才(ハタチ)まで一緒にいた、元ヒールレスラーの幽霊お母さんの影響に違いないと。 真摯に謝る大和さんを黙って視ていたお爺さんは、女性陣の視線を集め居心地悪そうに白い頭をガリガリと掻き出した。 で、 『……いや……その……なんだ……チッ! 調子狂うな! 誠と同じ顔してんのに全然(ちげ)ぇじゃねぇか……オイ、岡村ァ! 大和に言ってやれ。そんなもん大した問題じゃねぇってよ。今更お上品な誠なんざ気味(わり)いし、俺だってこんななんだからよ!』 認めた。 自分も似たようなもんだって事を。 「大和さん、要約するとお爺さんはこう言っています。『気にする事はない、大した問題ではないのだから』と。あ、ちなみに藤田家女性陣も同じ意見みたいです」 「なんと……! 藤田家の皆さんの懐の深さよ……!」 感無量と言わんばかりに拳を握りしめる大和さん。 『いや、だからよぉ……“懐が”とかじゃなくてな、そんなコトくれぇでイチイチ謝ってたら話が進まねぇだろうが。俺だって口が(わり)い方だしよ、そんなんじゃ喋りにくくならぁな、』 まぁ、そうでしょう、そうでしょう。 これで社長が形だけでもお上品に喋り出したら、立場上お爺さんだって……んぷっ! しどろもどろになっちゃうんだろうなぁ。
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