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どうもアパートの中ではないようだ。
せめて懐中電灯でもあればいいのだけど、そんなもの持ち歩いているはずもない。
懐中電灯のかわりになるようなものがあれば……
そこまで考えてハッと気づいた僕は勢いよくジャケットの内ポケットに手を突っ込んだ。
なんで忘れていたんだろう。
スマホがあるじゃないか。
僕は自嘲気味に苦く笑った。
とりあえずスマホの光で辺りを見れば何か情報が掴めるかもしれない。
それから社長に電話をして迎えに来てもらおう。
現場初日から迷惑をかけてしまって申し訳ないけど大丈夫だ。
こんな事で怒る人じゃない。
手のひらに収まる程度の小さな端末機1台で、現状の8割解決したような気分になった僕は意気揚々と電源ボタンを押した。
いつもなら一瞬で点灯し、待ち受け画面に設定したエレガントに首を傾げる実家の猫が映るはずだった。
なのに____
画面はブラックアウトしたままでなんの反応も示さない。
焦った僕は電源ボタンを連打したり長押ししたり、あらゆる事を試したけどスマホに光が戻る事はなく……僕は絶望した。
どうしたらいいのだろう?
僕は暗闇の中、思考を巡らせていた。
相変わらず血と腐敗した何かの臭いで充満したこの空間に光は無いけど、僕の目が暗闇に慣れてきたのか、近づければ自分の手がうっすらと見える。
たったそれだけの事ではあるけれど、さっきまで絶望の淵にいたのが少しだけ持ち直し解決策を考えようと言う気になれた。
社長の元に帰りたい。
その為にはどうしたらいいのか。
僕は試しに叫んでみる。
「社長ーーー! 先代ーーー! 近くにいますかーーー?」
頭の中で10数えたけど返事はなかった。
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