第十三章 霊媒師 清水誠

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想像の中のお爺さんにニヤニヤしていると、地の底を這うようなドスの効いた声が僕を呼んだ。 『岡村ァ、おまえナニさっきからニヤニヤしてんだ、あぁ?』 「え!? いや、別にニヤニヤなんて……その、ほら、気のせいですよ」 『気のせい? 気のせいだってか、随分言うようになったじゃねぇか』 お爺さんの上半身がユラリと揺れた。 その顔に友好的なものは一切感じない。 「言うようになったって……あれ? 僕なんか失礼な事言いました? お、おかしいなぁ。そんなつもりはなかったのに、ははは」 と、とりあえず曖昧に笑ってみたけど、誤魔化せるだろうか……? 『なぁ、岡村よ、おまえ通訳下手くそなんじゃねぇか? だってよ、俺の言った事そのまんま伝えなかっただろ。要約だかなんだか知らねぇが、岡村っぽく言い方が変わってたもんなぁ』 「や、でも、ほら、お爺さんの言葉一字一句覚えるのは無理ですし、そんな事してたら長くなっちゃいますし、それに……お爺さんの口調をそのままお伝えする空気じゃなかったっていうか……ねぇ」 『空気だぁ? そんなものはなクソ食らえだ! 男はな多少口が悪くたっていいんだよ。少なくとも俺はまったく気にならねぇ。岡村、今から大和に伝えろ。こっから誠も俺もいつも通り自由に喋る。その事でグダグダ言いっこナシだ。それと岡村も、俺の口調を忠実に再現しろ。でないと誠が叱られる』 誠が叱られる、か。 お爺さんなりに社長を気遣ってるんだろうな。 だけどなぁ……お爺さんの完コピで大和さんに伝えるのってなぁ、ちょっとやりにくいなぁ。 『岡村ァ、なぁにグズグズやってんだ。早く言え』 急かすお爺さんにどうしたものかと、チラリと先代に目をやった。 こういう時は年長者に頼るのが一番だ。 助けて先代! 僕と目が合った先代が何かを言おうと口を開きかけた時、待ちきれなくなったお爺さんがスクッと席を立った。 そして僕をじっと視ながら、 『知ってっか? 俺はな、気が短ぇんだよ。もういい。ここからは俺が直接大和と話す。岡村、協力しろ』 直接話す? いやそれは無理ですよ、だって大和さんには霊感がないのだから。 その為に僕がいるんです、協力なら通訳という形でしているじゃないですか……って、 え……? お爺さんなにしているの……? 大和さん以外の全員がお爺さんに……いや、お爺さんの手元に釘付けになっていた。 お爺さんは両手両五指を複雑に組み替えながら、口の中でなにかブツブツと呟いている。 あの手の動き……あれはまるで水渦(みうず)さんみたいだ。 霊視(のぞき)を始める前にああやって印を組んでいたのを覚えている。
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