第十三章 霊媒師 清水誠

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「あの印は……間違いない、瀬山流だ……!」 いつの間に近くに来た先代が、お爺さんの手指の動きを食い入るように視ていた。 「瀬山流? 先代、それは?」 先代はお爺さんの手元から目を離さないまま話を続けた。 「島根にね、祓い屋を生業(なりわい)とした霊力(ちから)の強い霊能一族がいてね。その一族の名が瀬山なの」 「祓い屋を生業? ウチと同業者って事ですか?」 「とんでもない! ウチなんかとは比べ物にならないよ! 規模が違う! 霊能関係者で瀬山の名を知らない人はいないくらいにね」 「そんなにスゴイんだ……」 「そう、スゴイのよ、日本で1番大きくて1番力を持っている祓い屋さん。当主は瀬山の血筋だけど、血縁ではない手練れの霊媒師も沢山いるんだ。なんせ依頼件数が尋常じゃないから、それだけ霊媒師(ひと)が必要なの」 「ウチは社長以外の霊媒師は、僕を含めて……6人ですよね。瀬山さんの所には、どのくらいの人数がいるんですか?」 「そうねぇ、今でも150人は下らないと思うけど、1番多い時は200人以上いたんじゃないかな。瀬山は仕事に厳しくてね、所属する霊媒師は高い霊力(ちから)とそれを生かす技術が要求されるの。少しでも能力が落ちればたとえ血縁者でも即クビだから、みんな必死に修行してる。終わりのない過酷な修行に逃げ出す者もいるけど、それに耐えて10年もいれば相当に霊力(ちから)がつく。かくいう私も若い頃は霊媒師として瀬山にお世話になっていたんだ。今の私があるのは瀬山のおかげ。懐かしいなぁ……修行は厳しかったけど……こっそり泣いたけど……何度逃げようと思ったかわからないけど……」 「先代……相当辛かったみたいですね……だけど、そんなにスゴイ瀬山流の印を、どうしてお爺さんが知ってるんでしょうか……?」 水渦(みうず)さんに比べれば速度は落ちるものの、お爺さんは時折考え込んだり止まったりしながら一生懸命印を組み続けている。 「黄泉の国で瀬山さんに、瀬山彰司(せやま しょうじ)さんに会ったんだろうね」 「瀬山、彰司さん?」 「そう、当時の当主の一人息子で、瀬山一族の中でもずば抜けて霊力(ちから)が強かった人。色々あってね、あれだけ霊力(ちから)があったのに跡は継がなかった。だけど生涯死ぬまで一霊媒師(いちれいばいし)として沢山の人達を救ってきたんだ。随分前に亡くなって、今は黄泉の国で奥さんと楽しく暮らしてる」 「その瀬山さんから印を教わったと?」 「うん、そう。あのね、私が真君に教えてあげたのよ。黄泉の国に着いたら持丸の友人だと言って瀬山さんを訪ねるといいって。そうすれば色々教えてくれるかもしれないって」 「先代が? だけど……お爺さんは瀬山さんからなにを学びたかったんでしょうか? 生前は林業で霊能とは無縁のはずですよね? あの印で何をする気なんだろう? まさか霊視(のぞき)? って、んな訳ないか。冗談です」 「ユリちゃんの為だよ。この先、ユリちゃんに害を成すであろう生者(・・)から守りたい、だけどただの幽霊ではあまりに無力すぎる、そう先月に相談されたんだ」 言われてみれば……断片的だが僕の記憶がユルユルと浮かび上がってきた。 ユリちゃんのアパート……楽しかったケーキパーティーが終わり……藤田家の皆さんが光る道に乗って黄泉の国に旅立つ直前……先代がお爺さんと話していた。 ____私も死んでからまだ一度も向こうに逝っていないから…… ____はっきりした事はわかりませんが…… ____できない事はないと思いますよ…… ____向こうに私の知り合いの霊媒師がいます…… ____持丸の友人だと言って訪ねてみてください…… ____名はセヤマ……ショウ……ジ そう、あの時、確かにセヤマショウジと言っていた。 その方が霊媒師であるとも。 「お爺さんは瀬山さんの元で修行してる、という事でしょうか。僕、思い出しました。先代とお爺さんの会話……それからあの時、僕にこうも言ってました。『……今の俺じゃあユリを守る事ができねぇ。だけどな必ずなんとかする』って」 「その『なんとかする方法』を必死に考え、黄泉の国(むこう)で瀬山さんを探し出し頼み込んだのでしょう。真君にとってユリちゃんは宝物以上の存在だからねぇ」
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