第十三章 霊媒師 清水誠

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高い霊力を持つ瀬山さんから、お爺さんは何を教わったのだろう? この先ユリちゃんに害を成す生者とは、アイツ……ユリちゃんの父親に違いない。 逮捕から11年、いつ出所するかわからないアイツからユリちゃんを守りたいと強く望むがゆえ、あの年齢で一から新しい事を学ぶ決心させた。 深い愛情とはどんな困難にも立ち向かう力になるのだ。 たどたどしい印を延々と結んでいたお爺さんが手の動きを止めた。 額には数滴の汗が浮かんでいる。 結び終えたのか? それとも中断なのか? その答えはすぐに知る事ができた。 『よしッ! これで終わり! 全部結んだ! 実際に術を使うのは初めてだからな……うまくいくといいんだが。 オイ! 岡村ァ! ちょっとこっち向けやァ!』 え? 僕? 呼ばれるがまま「なんですか?」と顔を上げた僕は、ニタァと笑うお爺さんとガッツリ目が合った。 途端、背筋が寒くなる。 あの笑顔……嫌な予感しかない。 『岡村ッ、ちっとばかし身体借りるぞ!』 身体を? 借りる? って、そんな事____そう思った時には遅かった。 グルンと一回転、身体が宙に浮いた感覚に眩暈がして、たまらず閉じた目を再び開けた時、強い混乱に襲われた。 嘘だろ……? 僕の目の前にもう1人の僕がいる……! だけどこれは僕じゃない! だって……! 僕はここにいるんだから……! 僕じゃない僕は、社長みたいに首をコキコキと鳴らすと、 スゥーーーーー……………………ハァーーーーーーーーーッ 大きく息を吸い込んで吐き出した。 数秒の沈黙が流れ、だがその後の動きは激しかった。 僕じゃない僕は何を思ったのか、何度も両手で頬を叩き『ひょー! 痛ってー!』と大はしゃぎ。 そして短時間でストレッチを終えると、人ん()の畳で遠慮のないジャンプをしては埃を立て、握った拳でファイティングポーズを決めてからのハイキックと、やりたい放題暴れ出した。 僕の姿で繰り広げる非常識な振る舞いに胃がキリキリし始めて、さすがにそれを止めようとした時、僕じゃない僕は大声を張り上げた。
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