第十三章 霊媒師 清水誠

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『かーーーーーッ! なんだこりゃあ! 随分細っちい身体だな! 筋肉も脂肪も足りてねぇ! 岡村ァ! おまえちゃんとメシ食ってんのかぁ?』 僕の顔であの言葉使いは有り得ない! それからそんなに暴れないで! ココは人ん()! でもってもう1人の僕のあの喋り口調、あれ中の人(・・・)はお爺さんだ! 身体を借りるって、こういう事なの!? てかちゃんと説明して! 僕の皮を被ったお爺さんは、人の話をまったく聞かずにガニ股で仁王立ち。 挙句あろう事かお尻をボリボリ掻いての高笑い……下品すぎる! 『久しぶりの生身の身体だ! 印は成功! 瀬山先生に報告したら喜ぶだろうなぁ! ガハハハハハハ!!』 表情だけであんなに変わるものなのか。 どちらかと言えば大人しい部類に入るであろう平凡な30男は、鋭い眼をしたオラオラ系に大変身していた。 あんな下品な男は僕じゃない……! 僕じゃないけど見た目は僕だ。 だけど僕はここにいる……お爺さん、身体を借りるとは言っていたけど、僕が2人に増えちゃうってどういう事? 訳のわからないこの状況、ユリちゃんの呟きが更に僕を混乱させた。 「岡村さんが2人……? 1人は身体に揺らめきがある……なんで……?」 揺らめきがある、と言いながら視たのは明らかに僕の方だった。 背中に冷たい汗が流れる。 考えたくもない仮説は、数瞬の間を置いて答えへと進化した。 …… ………… まさか……いやだけど……今の僕って幽体なんじゃ……? 強制的な幽体離脱で……肉体から追い出されちゃった……? でもって僕の身体にはお爺さんが入ってる……? …… ………… うわぁぁぁぁぁああああああああああッッッ!!! 「お爺さん! 僕の身体返してください!」 『あぁん? やなこった!』 この部屋の全員がポッカーーーンと口を開け、幽体となった僕と、僕になったお爺さんを交互に眺めていた(大和さんはお爺さん一択だけど)。 「返して!」『まだ返さねぇ!』 延々と繰り返される僕とお爺さんの言い争いに、この場の年長者である先代が間に入ってくれた。 「岡村君、真君、2人共落ち着いて!」 「だって先代! お爺さんが僕の身体を、」 『うっせーなー! 後で返すって言ってんだろ!』 「そんなの今初めて聞きました!」 『あーあー悪かったよッ!』 身体を取り戻そうと必死にしがみつくも、喧嘩慣れしたお爺さんにあっさりと受け流されてしまう。 僕はいい歳をして泣きそうだった。 「真君、岡村君を依り代にしたね?」 はぁっと溜息をつきながら先代が言った。 僕の身体を依り代に? ____そんなに驚く事じゃないよ。死んだ人の魂を自分の身体に憑依させて好きに喋ってもらう……なんて、映画や小説で見たことなぁい? あ……! これ、さっき先代が言ってたやつ! ただ少し違うのは、憑依なんてヌルイもんじゃあないって事だ。 僕の身体から僕を追い出し(なんの許可もなく!)かわりにお爺さんが入り込むという……乗っ取り行為! いやぁ、まさかこんな事が起こるとは! 生者でありながら幽体になるという貴重な体験! 滅多にできるものじゃないゾ! いやはや、これは良い機会! 勉強させて頂きます! なんて……なんて……言う訳ないだろーーーー!! いいから早く返してくれーーーー!!
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