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『かーーーーーッ! なんだこりゃあ! 随分細っちい身体だな! 筋肉も脂肪も足りてねぇ! 岡村ァ! おまえちゃんとメシ食ってんのかぁ?』
僕の顔であの言葉使いは有り得ない!
それからそんなに暴れないで! ココは人ん家!
でもってもう1人の僕のあの喋り口調、あれ中の人はお爺さんだ!
身体を借りるって、こういう事なの!?
てかちゃんと説明して!
僕の皮を被ったお爺さんは、人の話をまったく聞かずにガニ股で仁王立ち。
挙句あろう事かお尻をボリボリ掻いての高笑い……下品すぎる!
『久しぶりの生身の身体だ! 印は成功! 瀬山先生に報告したら喜ぶだろうなぁ! ガハハハハハハ!!』
表情だけであんなに変わるものなのか。
どちらかと言えば大人しい部類に入るであろう平凡な30男は、鋭い眼をしたオラオラ系に大変身していた。
あんな下品な男は僕じゃない……!
僕じゃないけど見た目は僕だ。
だけど僕はここにいる……お爺さん、身体を借りるとは言っていたけど、僕が2人に増えちゃうってどういう事?
訳のわからないこの状況、ユリちゃんの呟きが更に僕を混乱させた。
「岡村さんが2人……? 1人は身体に揺らめきがある……なんで……?」
揺らめきがある、と言いながら視たのは明らかに僕の方だった。
背中に冷たい汗が流れる。
考えたくもない仮説は、数瞬の間を置いて答えへと進化した。
……
…………
まさか……いやだけど……今の僕って幽体なんじゃ……?
強制的な幽体離脱で……肉体から追い出されちゃった……?
でもって僕の身体にはお爺さんが入ってる……?
……
…………
うわぁぁぁぁぁああああああああああッッッ!!!
「お爺さん! 僕の身体返してください!」
『あぁん? やなこった!』
この部屋の全員がポッカーーーンと口を開け、幽体となった僕と、僕になったお爺さんを交互に眺めていた(大和さんはお爺さん一択だけど)。
「返して!」『まだ返さねぇ!』
延々と繰り返される僕とお爺さんの言い争いに、この場の年長者である先代が間に入ってくれた。
「岡村君、真君、2人共落ち着いて!」
「だって先代! お爺さんが僕の身体を、」
『うっせーなー! 後で返すって言ってんだろ!』
「そんなの今初めて聞きました!」
『あーあー悪かったよッ!』
身体を取り戻そうと必死にしがみつくも、喧嘩慣れしたお爺さんにあっさりと受け流されてしまう。
僕はいい歳をして泣きそうだった。
「真君、岡村君を依り代にしたね?」
はぁっと溜息をつきながら先代が言った。
僕の身体を依り代に?
____そんなに驚く事じゃないよ。死んだ人の魂を自分の身体に憑依させて好きに喋ってもらう……なんて、映画や小説で見たことなぁい?
あ……!
これ、さっき先代が言ってたやつ!
ただ少し違うのは、憑依なんてヌルイもんじゃあないって事だ。
僕の身体から僕を追い出し(なんの許可もなく!)かわりにお爺さんが入り込むという……乗っ取り行為!
いやぁ、まさかこんな事が起こるとは!
生者でありながら幽体になるという貴重な体験!
滅多にできるものじゃないゾ!
いやはや、これは良い機会!
勉強させて頂きます!
なんて……なんて……言う訳ないだろーーーー!!
いいから早く返してくれーーーー!!
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