第十三章 霊媒師 清水誠

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「はぁ……それにしても、もうちょっと方法はなかったんですか? 僕の身体を使うのに、なにも僕を追い出さなくても良かったんじゃないですか?」 お爺さんに身体を貸す事に同意したものの、断りもない強引な方法に精一杯の文句をつけた僕に、お爺さんはこう言った。 『いやぁ、(わり)(わり)い。いやな、瀬山先生に言われたんだ。身体を借りる相手が霊媒師歴の浅いヤツだった場合と、まったくの素人だった場合、そん時は必ず本人を一旦身体から追い出せってよ』 お爺さんの回答に先代と社長は、「ああ」と小さく頷いているが、僕を含めたその他全員はなにを言ってるのかわからないでいた。 『あのな、生きた人間を依り代に、俺ら幽霊が身体に入り込むってのは結構厄介な事なんだ。下手すりゃ身体の中で2つの魂が混ざり合って2度と分離ができなくなる。当然どっちの人格も破壊されて消滅だ。なぁ岡村よ、俺と心中なんて、そんなの嫌だろ?』 え……なにそれ怖い。 「じゃあ、お爺さんはそうならないように僕を追い出してくれたんだ……」 『ああそうだ、感謝しろよ? コノヤロー』 自慢げにふんぞり返るお爺さんに僕は複雑な思いでいた。 お爺さんが黄泉の国に旅だっていったのは1カ月前。 まったくの霊能素人だったお爺さんは、短い期間で印を覚え、しかもいきなり乗っ取りを成功させた。 愛する孫の為とはいえ……これは相当努力したんだろうな。 くぅ!  僕も明日からもっと頑張なければ……! 「あ、そう言えば、お爺さんが言ってた事で1つ質問があるんですが……依り代にする生者が手練れの霊媒師だった場合、混ざり合ったりしないんですか? さっきの言い方だと、そんな風に聞こえるんですけど」 身体から追い出す対象は歴の浅い、僕みたいな新人霊媒師と素人の方だと言っていた。 ベテラン霊媒師なら大丈夫なの? 『ああ? ああ……その辺はなんでか良く知らねぇよ。ただ、瀬山先生がそう言ってたってだけで、どうして混ざらないのかはわかんねぇ』 口を尖らせるお爺さんの代わりに先代が続きを話してくれた。 「ベテラン霊媒師はね、身体の中で魂が混ざる事故が起らないよう、中に間仕切りを作るのよ。例えば身体の3分の2のスペースに自分の魂を押し込んで、間仕切りで隔ててから残りの3分の1は空きにするの。開いたそのスペースに霊を取り入れる。壁があるから2つの魂が混ざる事はないし、いざとなったら強制的に追い出す事もできるんだ。ただし、その間仕切りを作るのが難しい。技術の高いベテランでないと危険なんだ」 身体の中に間仕切りを作る? うーん、もしかしてアレに似てるかな? パソコンでハードディスク(ベテラン霊媒師の身体の中)をパーテーション(間仕切り)で区切り、Cドライブ(ベテラン霊媒師の魂)とDドライブ(幽霊の魂)とで分ける感じ……? そう考えるとなんとなくわかったような気がする。 だけど、それを自分の身体でするとなると話は別だ。
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