第十三章 霊媒師 清水誠

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「さて、」 お爺さんは座卓をグルリと回り、座布団の上に胡坐をかいた。 入れ物は僕の身体なものだから、58kgの体重分、座布団が沈み込んでいる。 男にしては大した重さじゃないけれど、これは命を持つがゆえの重量だ。 数瞬、お爺さんはしみじみと形を歪めた座布団を撫ぜた。 俯いた角度は表情のすべて見る事はできないけど、どことなく憂いを含んでいるように感じる。 本当は……ユリちゃんを残して死にたくなかったんだろうな。 生きてユリちゃんを守って、ユリちゃんの成長を間近で見ていたかったんだろうな…… 「これで落ち着いて話ができる。まず大和、初めましてだな。あんたの息子とは先月に知り合った。道端でタイマン張って、その後ケイキを食ったんだ」 うわっ! タイマン後のケーキって分かりにくっ! まあ大体合ってはいるけどはしょりすぎでしょ! これじゃあ大和さん分からないよ……と思ったら、 「なるほど」 とウンウンと頷いている。 ちょ、ウソでしょう? そんな説明でいいの?  それで分かるの? てか柔軟! 柔軟黒帯ィ! 「前に息子が話してくれました。とてつもなく強い男と闘ったって。動きは雑だが、勘が鋭く豪腕で、なんとか引き分けに終わったけれど危なかったと聞いています」 あぁ、なぁんだ。 大和さん、社長からあの日の事も聞いてたんだ。 「とてつもなく強い男……か(ニヤニヤニヤニヤ)。いやな、そんな大袈裟なもんじゃあねぇよ。ただ俺はよ、林業一筋55年。毎日毎日、山と闘ってきた。時には熊と、時には猪と、死闘を繰り広げてきたからよ。確かにちったぁ(つえ)えかもしれねぇ。へへ、本物の格闘家から見てもやっぱりそう思うか?」 なんか……強いって言われてめっちゃ嬉しそうだ。 てか、僕の顔で嬉しそうにしていると、僕まで嬉しくなってくる。 不思議なもんだ。 「私以外の人間に、あそこまで追い詰められたのは初めてだと言ってましたよ。だからねぇ、実は私も藤田さんにお会いするのが楽しみだったんです。叶う事なら一戦願いたいくらいだ」 一戦!? 身長2m超の岩山とお爺さんで!? ダメに決まってんでしょ!! ホント!! 絶対ダメだから!! 僕のひ弱な身体を見てくださいよ! ワンパンで死亡するからね! 「お? そうか? じゃあ、いっちょ()るかぁ!!」 言うが早いか片膝を立てたお爺さんに、先代が盛大な咳払いをして牽制する。 その咳払いを耳にしたお爺さんは、 「あ……そうだった。 いや! あのな持丸さん! 分かってるって! や、()らねぇよ! 冗談だ、あたりめぇだろ?」 へへっと笑いながら座り直したけど、今の絶対冗談じゃなかったよね! 先代の牽制がなかったら危なかったわ! その先代はお爺さんの言い訳に、三日月のように口角を上げ、 「真君、気が合うねぇ。私も冗談は大好きだよ」 …… ………… 冗談が好きだと言う先代の目は、まったく笑っていなかった。 お爺さんはモゴモゴと「す、すまねぇ」と頭を掻いている。 お爺さん……先代の言う事はちゃんと聞くんだよなぁ。 あんなに口が悪いのに先代の事だけは、最初から持丸さんって呼んでるし。 基本体育会系な所があるから年上に対する礼儀は守ってるのかもしれないな。(お爺さんは享年70才、先代は享年78才)
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