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「大和、子供は誠1人か?」
ユリちゃんが淹れてくれたお茶のおかわりを、ゆっくりと飲みながらお爺さんが聞いた。
「ええ、誠だけです。本当はもう4~5人欲しかったのですが妻が亡くなって、それは叶いませんでした」
大和さんは淋しい気持ちを隠すように顔をくしゃくしゃにして笑った。
「そうか。再婚は考えなかったのか?」
「考えなかったですねぇ。私はね、今でも妻が大好きなんです。彼女以上に優しい女性はいない。優しくて美人で料理が上手で、誰よりも強い。それに……こんなに可愛いバカ息子を生んでくれたんだ、頭が上がりません。妻は私の女神ですよ」
「女神か……大事なカミさんが先に死ぬのは辛えよな。俺もそうだった。だから大和の気持ちがわかるぞ。相手がよ、死んでいようが生きていようが、惚れた気持ちは変わらねぇもんだよな」
サラッと言ってのけたお爺さんの隣で、お婆さんは顔を真っ赤にさせていた。
やん、かわいい。
「わかります!? そうなんですよ! 良い事おっしゃる! 妻が亡くなって31年。その間、幸いな事に、誠が色々やらかしてくれたおかげで淋しいと思う暇がありませんでした。それにね、私達夫婦は格闘家だ。妻が家にいないのは遠征試合に行っていると思うようにしているんです。今頃はどこか遠くのリングでパイプ椅子を振り回しているとね、」
パイプ椅子……ヒールレスラーの必須アイテムか。
でもって社長、昔から色々やらかしてたのね。
「まあでもよ、大和があと4~50年生きてヨボヨボになって死んだ後、黄泉の国でまたカミさんに会えるんだ。今から楽しみにしとけよ」
ニカっと笑うお爺さんはそう言うけど、違うんだ。
だって……
「ん……そうですねぇ。そうだと良かったのですが、妻はもう生まれ変わったそうです。なので逢う事は叶いません。……でもね、いいんです。生まれ変わった妻は、きっとどこかで幸せに暮らしているでしょうから」
「……そうか、余計な事を言っちまったな。すまねぇ、」
「やだなぁ! しんみりしないでくださいよ! さっきも言いましたが、淋しいと思う暇はありません。だってウチのバカ息子がまたやらかしてくれたのですから。今回はスゴイ! まさかこんなに素敵なお嬢さんを連れてくるとは思わなかった! 優しくてかわいらしくて正直者のお嬢さんが、誠を好いてくれるなんて奇跡としか言いようがない! 家族が増えるんです。娘が増えるんです。藤田家の皆さんと言う身内が増えるんです。こんなに嬉しい事はない! ユリさん、藤田さん、本当にありがとうございます!」
ザザッと素早く座布団から降りた大和さんは、深く深く頭を下げた。
丸まった背中が小刻みに震えている。
お爺さんはなんと答えるのだろう?
大和さんとは良い雰囲気で話していたけど、目の中に突き刺してグリングリンしても痛くないくらい大事な孫娘の結婚を許すとは、まだ言っていない。
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