第十三章 霊媒師 清水誠

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破けていないYシャツにネクタイをきちんと締めた社長が大和さん同様、座っていた座布団から降り、正座をして背筋を伸ばした。 「真さん、それからお婆さんに貴子さん、聞いてくれ。俺、身体は丈夫なんだ。34年間生きてきて風邪を引いた事はただの1度もねぇ」 1度も!? どんだけ健康体なの……羨ましい! 僕なんて去年、ただの風邪を拗らせて喘息みたいになっちゃったんだ。 それがけっこうキツくて、横になると咳き込んで眠れないから、警戒中の武士みたいに座ったまま仮眠を取っていたというのに……(しかも完治に3週間もかかったヨ!)。 鍛え方も違うんだろうけど、格闘家の両親の血を引いた社長の身体は、人並み外れて強いんだろうなぁ……って、うん、強いのは分かったけど、なぜ今その話を? 僕と同じように思ったのか、貴子さんもお婆さんも「お、おう」な感じに戸惑っているし、ユリちゃんは相変わらず「ヘルシー……(ハート)」と恋にやられてしまっている。 だがお爺さんだけは、胸の前で腕を組み(ラーメン店の大将みたいなポージングね)黙ってそれを聞いていた。 「親父はああ言っていたが、俺、本当は知ってるんだ。お袋が死んで再婚もしねぇで俺を育ててくれたけど、夜中に部屋でこっそり泣いていた事をよ」 まさかの発言に大和さんはマッハの勢いで息子を見た、が、社長は構わず先を続けた。 「小さいながらに思ったよ。強がってるだけで本当は淋しいんだなぁってな。1度だけそれを聞いた事があってな、その時親父は言ったんだ。『淋しくないと言えば嘘になるけど、私が先に死んでいたら今頃お母さんが悲しがっていたかもしれないだろう? そんな思いはさせたくないからねぇ。辛い事は男の私が引き受ければいいんだよ』ってな」 大和さんにとってそれだけ大事な人だったんだろうな。 奥さんに悲しい思いをさせるくらいなら、自分辛い方がマシだと思ったんだろう。 「ユリはよ、小せぇ頃に母親亡くして、去年今年と立て続けに祖父母まで亡くしちまった。もちろん亡くなった真さん達が(わり)い訳じゃねえ。 けどよ、ユリはまだ18だ。強がってはいるが、独りになって心細かっただろうし淋しかったと思う。 だがな、これからは俺がいる。二度と独りにはさせねぇし、悲しい事や(つれ)え事は男の俺が引き受ける。 確かに俺はユリより16も上のオッサンだ。 だけど体力と健康には自信がある。 酒は嗜む程度でタバコは吸わねぇ、健康診断で引っ掛かった事もねぇ、ユリより先に絶対死なねぇ、一日でも長く生きる! 俺のこれからの人生を賭けて全力でユリを幸せにする! だから頼む! ユリとの結婚を認めてくれ!」
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