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ガバッと両手を畳の上につき、おでこがぶつかる勢いで頭を下げた社長を見て、ユリちゃんはわんわんと泣きだしてしまった。
貴子さんとお婆さんはユリちゃんに寄り添って、身体に触れる事はできないけれど、頭や背中に手を添えている。
押し黙ったまま腕を組んでいたお爺さんは、ふぅっと短く息を吐くと、社長の肩を掴んで顔を上げさせた。
そして、
「……誠よ、おまえ、風邪引いた事がねぇって本当か?」
至って真面目な顔でお爺さんが聞いた。
「ああ、本当だ」
社長も茶化す事なくそれに答える。
「バカは風邪引かねぇって言うからなぁ。ははっ、おまえ自分がバカだって事を証明しちまったな!」
鬼の首でも取ったかのようなお爺さんが愉快そうに笑った。
当然社長もこの挑発に乗るものだと思っていたのに、返したのは予想外の反応だった。
「バカで上等。バカは生命力が強いんだ」
少し口角を上げただけで、真剣な目は真っ直ぐにお爺さんを捉えている。
お爺さんも、そんな社長の目を捉え返した。
「相変わらず口の減らねぇ男よ」
「褒め言葉だろ?」
「なにバカ言って……いや……そうだな、褒め言葉だ」
「俺はユリを独りにさせねぇ」
「そりゃあな、独りにさせたくねぇがよ、」
「俺はユリを泣かせたりもしねぇ」
「あたりめえだ、コノヤロー、」
「俺がユリの新しい家族になって幸せにする」
「新しい家族か……なあ誠。……ユリはよ、おまえが思ってるより手がかかるぞ? しっかりしてるように見えてそそっかしいし、意外と頑固だ。部屋が真っ暗だと眠れねぇし、歯軋りもひでえ」
「ああ、」
「18にもなって泣き虫だし、そのくせ本当に辛え時は笑うんだ。なんでも自分が我慢すりゃあ良いと思うところがあってよ、溜めこんじまう性格だ」
「ああ、」
「なあ誠よ、ユリの家族になるならよ、そこいらの事みんな分かってやらねぇとダメだ、惚れた腫れただけじゃあダメなんだ。ユリの良い所も悪い所も、全部ひっくるめて惚れるくれえじゃねぇとよ」
「そうだな」
「おまえにその器はあるのか?」
「器か、器ってのはよ、目に見えるもんじゃねぇから、こればっかりは証明のしようがねぇ。だが見くびるな。真さんが思っている以上に俺はユリに惚れている。俺の命はユリのものだ」
「誠の命はユリのもの、か」
そう呟くとお爺さんは黙り込み、長いこと社長の目を見つめていた……が、やがて張りつめいていた空気が抜け、目には少々の涙と穏やかな色が浮かんだ。
「けっ! カッコつけやがってよ。やっぱりおまえはバカだ。けど、バカは嫌いじゃねぇ。俺だってバカだからな。
……誠、ユリを幸せにしてやってくれ」
認めた……
今、認めたよね?
聞き違いじゃないよね?
やった!
社長とユリちゃんの結婚が認められた!
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