第十三章 霊媒師 清水誠

40/43
前へ
/2550ページ
次へ
◆ 楽しい時間はあっという間にすぎるもので、大いに盛り上がったお祝いの宴が終わろうとしている。 約束通り、僕に身体を返してくれたお爺さんは、 『勝手に借りて悪かったな、あんがとよ。それからよ、岡村。おまえ少し身体鍛えた方がいいぞ。こんな貧相な身体じゃよ、いざ喧嘩になっても勝てねぇだろ?』 と割と本気で心配してくれた。 や、その、お言葉はありがたいのですが、僕、普段誰かと喧嘩する機会がないので、その辺はダイジョウブです。 『婆さん、貴子、そろそろ(けえ)るか、』 お爺さんの一言に、お婆さんも貴子さんも静かに頷いた。 時刻は夕方。 空は低くなり、蜂蜜色に染まっていた広い庭が徐々に薄暗くなっていく。 ユリちゃんは、帰ってしまう家族を笑顔で送り出そうと懸命に涙を堪えていた。 「ママ、爺ちゃん、婆ちゃん、今日は来てくれてありがとう。結婚、許してくれてありがとう。また……また、会えるよね?」 先月、藤田家が光る道に導かれ黄泉の国に旅だった時を思い出す。 あの時のユリちゃんは家族を笑って送り出し、そしてその後、声を殺して泣いていた。 だけど、今日からは違う。 「会えるに決まってんだろ。ユリが会いたいって言えば、俺がいつでも口寄せ(よんで)やる。遠慮なんかしなくていい、ワガママ言えばいい。ユリは俺の大事なカミさんなんだからよ」 もう独りじゃない。 ユリちゃんには社長がいる。 「……しゃ、社長のばかぁぁ! せ、せっかく、泣かないように、頑張ったのに、社長が、そんな事言うから……言うから……うわぁぁぁん」 あははは、ユリちゃん頑張ったのにねぇ。 だけど嬉しい時は泣いてもいいんじゃないかな。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加