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楽しい時間はあっという間にすぎるもので、大いに盛り上がったお祝いの宴が終わろうとしている。
約束通り、僕に身体を返してくれたお爺さんは、
『勝手に借りて悪かったな、あんがとよ。それからよ、岡村。おまえ少し身体鍛えた方がいいぞ。こんな貧相な身体じゃよ、いざ喧嘩になっても勝てねぇだろ?』
と割と本気で心配してくれた。
や、その、お言葉はありがたいのですが、僕、普段誰かと喧嘩する機会がないので、その辺はダイジョウブです。
『婆さん、貴子、そろそろ帰るか、』
お爺さんの一言に、お婆さんも貴子さんも静かに頷いた。
時刻は夕方。
空は低くなり、蜂蜜色に染まっていた広い庭が徐々に薄暗くなっていく。
ユリちゃんは、帰ってしまう家族を笑顔で送り出そうと懸命に涙を堪えていた。
「ママ、爺ちゃん、婆ちゃん、今日は来てくれてありがとう。結婚、許してくれてありがとう。また……また、会えるよね?」
先月、藤田家が光る道に導かれ黄泉の国に旅だった時を思い出す。
あの時のユリちゃんは家族を笑って送り出し、そしてその後、声を殺して泣いていた。
だけど、今日からは違う。
「会えるに決まってんだろ。ユリが会いたいって言えば、俺がいつでも口寄せやる。遠慮なんかしなくていい、ワガママ言えばいい。ユリは俺の大事なカミさんなんだからよ」
もう独りじゃない。
ユリちゃんには社長がいる。
「……しゃ、社長のばかぁぁ! せ、せっかく、泣かないように、頑張ったのに、社長が、そんな事言うから……言うから……うわぁぁぁん」
あははは、ユリちゃん頑張ったのにねぇ。
だけど嬉しい時は泣いてもいいんじゃないかな。
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