第十三章 霊媒師 清水誠

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思業式神さん達に連れられて、藤田家のみなさんと先代と大福は黄泉の国へと旅立っていった。 ふぅ……なんとか無事に終わった。 通訳なんて言いながら、ほぼほぼ通訳なんかしていない……けど、お爺さんに身体を乗っ取られたり、乗っ取られたり、乗っ取られたりで、やっぱり濃い1日だった。 辺りはすっかり陽が落ちて、夜空には橙色の満月が浮かんでいる。 家族を見送った社長とユリちゃんは、しっかりと手を繋ぎ、福々とした満月を見上げていた。 いいなぁ、あの2人すごく幸せそうだ。 ああ、ここに大福がいてくれたらなぁ。 すっかり隣にいるのが当たり前になってしまった愛しい幽霊猫。 ぽっかりと空いた空間に鼻の奥がツンと痛む。 なんとも言えない淋しさに(こうべ)を垂れていると、 「エイミー君、これ」 控えめに僕を呼ぶ大和さんの声がした。 振り向けば、大きな手には可愛らしいお菓子が握られている。 「これを……僕に?」 「うん、なんだか淋しそうに見えたから」 「そうですか……ありがとうございます」 ファンシーな包みを開けてみると中身は小さなマカロンで、一口かじると優しい甘さが口の中いっぱいに広がった。 「おいしい……」 「そう、良かった。……エイミー君、今日はありがとうね。またいつでも遊びに来てね」 そう言って笑う大和さんは、「良い一日だった」と鼻歌混じりに縁側に腰を掛けた。 僕も大和さんにならい隣に腰掛ける。 夜空に浮かぶ満月は穏やかに光り、優しく僕らを照らしてくれる。 いつになく、静かな夜だった。 霊媒師 清水誠__了
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