第十四章 霊媒師 ジャッキー

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という訳で、印を結べば社内で1番の水渦(みうず)さんに教えを乞うているのだが、なんせ指が硬くてうまく結べないのである。 「す、すみません。せっかく教えてもらってるのに、うまくできなくて……」 先週、担当していた現場を終えた水渦(みうず)さんは、新規の依頼が入るまで会社に出社する事になっている。 報告書も交通費精算もとっくに終えた水渦(みうず)さんに頼み込み、印の研修をお願いしたのだが……このザマなのだ。 朝一番、失せ物探しでよく使われる霊視の印を、最初から最後までゆっくりと結んでもらい、それをスマホで撮影させてもらった。 何度も何度も見直して、前半までの工程をなんとか覚えたけど、指の硬さで組む事ができない。 せっかく水渦(みうず)さんに時間を取ってもらったというのに……申し訳ない気持ちで一杯で、ただただあやまるしかなかった。 無表情のままティーカップを掴む水渦(みうず)さんは、そんな僕にこう言った。 「別にあやまる必要はありません。岡村さんの場合、手指の柔軟性に欠けるのが壁となっていますが、印との相性は良いと思います。その証拠に印を結んだ時、微かですが霊力反応が出始めています。正しく結びきる事が出来れば霊力(ちから)が発動されるではないでしょうか」 「ほ、本当ですか?」 無表情すぎて呆れて怒っているのかと思っていたのに、思いがけず優しい言葉をかけられて僕の気持ちは浮上する。 「私の性格上、心に無い事は言いません。動画に撮っていたとはいえ、初日から工程の半分を覚えてしまったのも驚きました。岡村さんの結ぶ印にミスはありません。ただ指が硬いだけですから改善はたやすいでしょう。以前、先代に頼まれて大倉さんに印を教えた時と大違いです。彼女は何度実演しても複雑な印は覚えられませんでしたし、しまいには怒り出しましたからね。それがきっかけで大喧嘩になったのです」 前に話してくれたアレか。 喧嘩して3階の女子更衣室の窓から、弥生さんの鬼殺し全部落として割ったってヤツ。 「指がねぇ、こう、水渦(みうず)さんみたいに動かないんですよねぇ。社長に聞いたら柔らかくする方法教えてくれるかなぁ? あ、てか社長は印結べるんですか?」 「社長も大倉さんと同じです。簡単な印しか結べません。おそらく彼らは複雑なものにアレルギー反応を起こすように出来ているのでしょう」 なるほど、複雑なものへのアレルギーか。 僕はその言葉に妙に納得し、なんだかおかしくて笑ってしまった。 水渦(みうず)さんも、なにやら口元を歪ませているから多分笑っているんだろうな。
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