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という訳で、印を結べば社内で1番の水渦さんに教えを乞うているのだが、なんせ指が硬くてうまく結べないのである。
「す、すみません。せっかく教えてもらってるのに、うまくできなくて……」
先週、担当していた現場を終えた水渦さんは、新規の依頼が入るまで会社に出社する事になっている。
報告書も交通費精算もとっくに終えた水渦さんに頼み込み、印の研修をお願いしたのだが……このザマなのだ。
朝一番、失せ物探しでよく使われる霊視の印を、最初から最後までゆっくりと結んでもらい、それをスマホで撮影させてもらった。
何度も何度も見直して、前半までの工程をなんとか覚えたけど、指の硬さで組む事ができない。
せっかく水渦さんに時間を取ってもらったというのに……申し訳ない気持ちで一杯で、ただただあやまるしかなかった。
無表情のままティーカップを掴む水渦さんは、そんな僕にこう言った。
「別にあやまる必要はありません。岡村さんの場合、手指の柔軟性に欠けるのが壁となっていますが、印との相性は良いと思います。その証拠に印を結んだ時、微かですが霊力反応が出始めています。正しく結びきる事が出来れば霊力が発動されるではないでしょうか」
「ほ、本当ですか?」
無表情すぎて呆れて怒っているのかと思っていたのに、思いがけず優しい言葉をかけられて僕の気持ちは浮上する。
「私の性格上、心に無い事は言いません。動画に撮っていたとはいえ、初日から工程の半分を覚えてしまったのも驚きました。岡村さんの結ぶ印にミスはありません。ただ指が硬いだけですから改善はたやすいでしょう。以前、先代に頼まれて大倉さんに印を教えた時と大違いです。彼女は何度実演しても複雑な印は覚えられませんでしたし、しまいには怒り出しましたからね。それがきっかけで大喧嘩になったのです」
前に話してくれたアレか。
喧嘩して3階の女子更衣室の窓から、弥生さんの鬼殺し全部落として割ったってヤツ。
「指がねぇ、こう、水渦さんみたいに動かないんですよねぇ。社長に聞いたら柔らかくする方法教えてくれるかなぁ? あ、てか社長は印結べるんですか?」
「社長も大倉さんと同じです。簡単な印しか結べません。おそらく彼らは複雑なものにアレルギー反応を起こすように出来ているのでしょう」
なるほど、複雑なものへのアレルギーか。
僕はその言葉に妙に納得し、なんだかおかしくて笑ってしまった。
水渦さんも、なにやら口元を歪ませているから多分笑っているんだろうな。
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