第十四章 霊媒師 ジャッキー

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で、確かにこれはジャッキーだ。 だけど、それフィギュアでしょう? これがウチの会社の霊媒師だ! なんて言われても、どう返したらいいか分かりませんよ。 僕をからかうにしたって、さすがに、それは、あははは。 「なんだ、エイミー。おまえ信じてないのか? こいつはジャッキー。戸籍上の名前は志村貞晴(しむら さだはる)だが、今はジャッキーだ」 志村さん……? 志村貞晴さんって……急に現実的な名前が出てきたけど……え? 「あの……社長。僕、本気で意味が分からないんですが、」 「だから、コイツがジャッキーなんだって。ジャッキー、こいつが前に話した期待の新人、エイミーだ。戸籍上の名前は……めんどくせえからいいや、略!」 と至って真面目にフィギュアに語りかける社長に若干引きながら、僕の本名をスルーした事へのクレームをつけた。 「ちょ! めんどくさいってなんですか! どっちかって言うと、戸籍上の名前で紹介してほしいんですけど!」 僕がそう言うと「はは、そういうの飽きたわ」とジャッキー片手にヤレヤレという顔をした(ムキー! こっちがヤレヤレだよッ)。 僕は改めて社長に握られたジャッキーフィギュアを見る。 どこをどう見たってただの古びたフィギュアで、もう訳がわからない。 「社長、いい加減きちんと説明した方がいいのでは? このままでは志村さんも出るに出られないと思います」 そう言ったのは隣で笑っていた水渦(みうず)さんだ。 今は笑いの波がおさまったのか、通常通りの無表情である。 「まぁ、そうだな。ジャッキーはスーパーシャイな男だもんな。よし、仕切り直すか」 社長は古びたジャッキーフィギュアを机の上に置くと、「じゃ、自己紹介頼むわ」とだけ言って手を離した。 倒れる、と思った。 大抵のフィギュアは単独では自立できない。 自立させるには、専用の自立スタンドを装着させるのが一般的だと思っていた。 だが、目の前のジャッキーフィギュアは違った。 一瞬だった。 一瞬、緑がかった光を身体から発したと思ったら、それまでダラリとしていたジャッキーフィギュアの目に、脚に、腕に、身体全体に力が宿り、スタンド無しで直立したのだ。 「え!? なに? どういう事? ジャッキーが立った! ジャッキーが立ったんですけど!」 驚く僕の目の前で、ジャッキーフィギュアは大きく身体をのばし、まさにリアルジャッキー・〇ェンがするように、カンフーポーズを多種取り始めたのだ! 「えッ! ちょッ! なんで! フィギュア! 自立どころじゃないんですけど! フィギュアがカンフーエンジョイしちゃってるんですけど!!」
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