第十四章 霊媒師 ジャッキー

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僕の叫びにジャッキーフィギュアはニヤリと笑ったような気がした。 え? と、その真相を確かめる間もなくフィギュアの動きはより一層激しくなる。 汚れ気味のジャッキーは楕円に広がるミーティングデスクの端から全力で走りだし、社長のものであろう飲みかけの缶コーヒーを跳躍で飛び越えると、着地と同時に前方転回(バク転の逆のヤツね)の連続技を披露する。 1回2回3回4回、5回目のフィニッシュで瞬時にリバース、続けて2回連続バク転からの開脚着地。 その動きはフィギュアとは思えないくらい滑らかで力強い。 そして今度は素早く腰に手を回したかと思うと手にはヌンチャク。 ヒュンヒュンと小音ながらも鋭く風を切り、肉眼では追い付けないスピードで回転と半回転を繰り返す。 いい加減、見てる僕の目が回りそうな所で、 『ハイッ!!』 突如僕の脳内に気合の入った一声が響き、時同じくしてジャッキーフィギュアの動きも止まった。 い、今のなに!? 僕の脳内に誰かの声が直接聞こえた。 この感じ、まるで先代の業務連絡の時みたい。 スマホを持たない先代は(幽霊だしね)、離れた場所から僕らに連絡を取る手段として、自分の声を電気信号に変換し直接脳内に送り込んでくる。 まだそれに慣れない僕は、先代から連絡が入るたび驚いちゃうし気持ち悪っ! となってしまうのだけど、今のは先代の業務連絡と酷似していた。 消去法で考えるとさっきの声はジャッキーさんであろうと推測できる。 ジャッキーフィギュアは握った両拳を胸の前に一礼すると、 『初めまして、自分は志村貞晴、霊媒師歴8年の48才独身です。こんな姿で驚かれたと思いますが、基本自分は在宅勤務なものですからフィギュアを通してご挨拶させて頂きます。肉体(ほんたい)は大抵自宅、仕事の時は分割した自分の魂をフィギュアに入魂し、霊力を使って遠隔で操作、実際に現場に行くのもフィギュアです。主な移動手段は宅急便。得意とするのは小さなフィギュア(からだ)を生かした潜入と体術ですが、なんせフィギュアでの体術なので強いのは対霊戦のみです』 僕の脳内に穏やかで礼儀正しいジャッキーさんの声が聞こえてきた。 着払いで帰還して、フィギュアの身体で演武を披露したジャッキーさんに最初は驚いたものの、優しげな話し方に少しだけ落ち着きを取り戻した僕は、 「こ、こちらこそ初めまして。先月入社した岡村英海と申します」 とフィギュアに……いや、ジャッキーさんに頭を下げた。
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