第十四章 霊媒師 ジャッキー

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『ご丁寧にどうもありがとう。しかしさすがは霊媒師だね。エイミーさんはこんな自分を視ても驚かないんだもの』 「いやいやいや! 驚いてます! 今すごく驚いてます! ジャッキーさんは……あ、呼び方はジャッキーさんで良いのでしょうか? 志村さんの方が良かったですか?」 一回り以上年上の先輩霊媒師に、いきなりジャッキーさんだなんて失礼だったかと慌ててお伺いを立ててみるも、 『ははは、好きな方で構わないよ。まあ、どちらかと言えばジャッキーと呼んでくれた方が嬉しいかな。自分、ジャッキーのファンを通り越して崇拝してるもんで』 むしろジャッキー呼びを希望した。 「よほどジャッキー・〇ェンが好きなんですね……てか僕も好きですけど! それでその、ジャッキーさんは在宅勤務だって言ってましたよね? 今も身体は自宅に?」 『ああ、そうだよ。東京のK市って知ってるかな? 埼玉県のすぐ隣の市なんだけど、そこの古い一軒家で独り暮らしだ。今は自宅のリビングでコーヒーを飲みながら話してる』 「えぇ!? コーヒー飲みながら!? K市とT市って結構距離ありますよねぇ! フィギュアを遠隔であの動きをさせるのに、“ながら運転”ですか!? 僕てっきりロウソク立てた暗い部屋で座禅とか組んでるのを想像してましたよ!」 『最初の頃はそのくらいしないとダメだったけど、8年もやってれば嫌でもスキルは上がるものだよ。今なら陸続きであれば東京から山口県くらいまでコーヒーを飲みながらで充分イケる。まぁ、そうね。海を挟むとさすがにコーヒーは飲めないけど』 「す、すごい……」 『すごくないよ。自分からしたらエイミーさん達の方がよっぽどすごいよ。だって、』 目の前のジャッキーさんは頭に手をやり、恥ずかしそうに顔を伏せた。 だって……なんですか? その続きに耳を傾けていた時、ユリちゃんが「お話し中すみません、」とミーティングスペースに現れた。 途端社長は立ち上がり、 「お、ユリどうした? 腹が減ったのか? なんかオヤツ食うか? 俺の机にドーナツあるぞ? 他のものがいいなら金渡すから好きなモン買って来い」 と甘々だ。 「ち、違います! おなかが減ったんじゃありません! 新規のご依頼が入ったので稼動確認にきました。場所は神奈川県S市、一般家庭の一戸建て、依頼内容は先月から始まったポルターガイスト現象の鎮静化と除霊。予算はなるべくかからない方向で、早急な対応をご希望です」 手にしたメモを見ながら手短に説明してくれるユリちゃんに、社長はニヤリと笑って僕らを見た。 「稼働確認するまでもねぇよ、今ここに空いてる霊媒師が3人もいるんだ。ユリ、その依頼受けてくれ。ジャッキー、ミューズ、エイミーのスリーマンセル。今回リーダーはジャッキーで、サブはミューズだ。研修中のエイミーの料金は取らねぇが、エイミー、これが最後のOJTだと思ってくれ。この現場が終わったら次回からもう研修生じゃあねぇからな」 これが最後のOJT、その言葉に僕の心臓がドキンと跳ね上がった。 先輩霊媒師に同行し、手取り足取りカバーしてもらえる最後の現場。 身が引き締まる思いだった。 しかも前2回のOJTでは当たらなかったポルターガイスト、どう対処していくのか沢山の事を覚えるチャンスだ。 「わかりました。ジャッキーさん、水渦(みうず)さん、よろしくお願いします!」 僕の気合にジャッキーさんは『こちらこそヨロシク!』と親指を立てた。 一方水渦(みうず)さんは、無言のまま値踏みするかのように僕を凝視……や、ちょ、プレッシャーがハンパないよ。
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