第十四章 霊媒師 ジャッキー

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「ユリ、詳しい住所と依頼者氏名、連絡先を教えてくれ。それから回答はメールか?」 大股で事務所を歩きながら、社長は依頼者情報の確認をする。 そのすぐ後ろを小走りで追いかけるユリちゃんがそれに答えた。 「いえ、折り返し電話連絡をご希望されています。それから1つ、依頼者から強い希望がありまして、できれば家の中に入ってほしくないそうです」 「はぁ!? 家の中に入るなだぁ? ポルターガイストは家ん中じゃなくて庭で起きてんのか?」 「庭も時々。ですがメインは宅内、特に依頼者の自室がひどいとの申告です。……私も言ったんです。その内容だと家の中に入らないと解決が難しいって。でも、どうしても嫌だと言うんです。百歩譲って宅内に入ったとしても依頼者の自室には死んでも入るな、だそうです」 困った顔のユリちゃんが溜息交じりにそう言うと、 「なんだそりゃ、依頼者(ソイツ)、本気で祓う気あんのか?」 「それはあるみたいです。電話口で『すぐ来い! 今すぐ来い! 5分で来い!』って怒鳴ってましたから」 ユリちゃんの何気ない補足説明に社長の顔色が変わった。 「……あぁ? ユリに怒鳴っただぁ? 依頼者(ソイツ)、俺の嫁に怒鳴ったってのか! 絶対(ぜっってぇ)許さねぇ! ちょっと待ってろランエボ舐めんな、マジで5分で着いてやる! でもってリアルミンチにしてやるッ!!」 ここからS市、一体何キロあると思ってるんですか。 5分じゃ絶対着かないし、依頼者ミンチしないでください。 てか社長、妻命すぎだな、オイ。 なんてニヤついていると、ジャッキーさんのテンパり声が大音量で脳内に割り込んできた。 『ちょっと待てーーーー!! あっち! コーヒーこぼした! 拭くもの! なんか拭くもの! ああもういいや! 社長今なんて言った!? 嫁って言った? え? え? こちら新しい事務の方じゃないの? え? 事務担当と嫁の兼任? なんで? 社長は自分と一緒でモテないはずだよね? 一生独身じゃなかったの? 自分、老後は社長と一緒に住もうと思ってたのに? それが結婚? ウソだろ? 裏切りじゃないかぁぁぁぁ!!』 ああ、そうか。 現場に出ていたジャッキーさんはユリちゃんが事務として入社した事も、社長が婚約した事も知らないんだよな。 それにしたって動揺しすぎだ。 ミーティングデスク上のジャッキーさんは散々叫んだ後、崩れるように突っ伏した。 「へへ! (わり)いな、ジャッキー。俺ら6月に入籍予定だからよ。紹介が前後しちまったがこの子はユリ、新しい事務担当で俺の嫁だ。ユリ、そこに転がってるフィギュアが……」 ジャッキーさんを紹介されたユリちゃんは、丁寧にお辞儀をし挨拶をしている。 ユリちゃん良い子だなぁ、てか、結構なにを視ても受け止めちゃう子だよね。
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