第十四章 霊媒師 ジャッキー

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◆ 意外にも水渦(みうず)さんは安全運転だった。 おかげで助手席の僕は、タブレット端末を見続けていているのに車酔いの気配が無い。 慌ただしく会社を出発したせいで、依頼内容を聞く時間が足らず、ユリちゃんから「トップ画面の【依頼フォルダ】を見てください」と、この端末を渡された。 ざっと目を通すも情報量が多い。 全ての文章を読んでからの説明では時間がかかる、そう判断した僕は表示された内容を水渦(みうず)さんとジャッキーさんに聞こえるように読み上げた。 「依頼者は神奈川県S市に住む、黒十字 白(くろじゅうじ はく)様、29才。男性の方です、ってスゴイ名前だな……黒なんだか白なんだかわかんないよ、」 依頼者氏名に思わずツッコミを入れてしまった僕の脳内には、長身オレ様ビジュアル系の男性が浮かぶ(だって、苗字が黒十字だよ? 名前が(はく)だよ? めっちゃクールなイケメンが浮かばない?)。  「失礼しました。申告のポルターガイスト現象は、先月から始まったそうです。パキーンパキーンというラップ音に壁や天井を叩く音、鍵までかけてある自室のドアが、いつの間にか開錠されてゆっくりと開いたりと……てか怖いな。こんな事が自分の家で起こったら住んでられないですよ、」 キーマンさん風に言うなら、今僕はア・リトル・チキンスキン(少し、鳥肌)だ。 だけど他の2人は違うみたいで、 『その程度なの? これなら早く帰れるかもしれませんね』 呑気な調子のジャッキーさんと、 「ありきたりなポ現ですね。既出すぎて芸がありません」 淡々とした水渦(みうず)さん。 2人共ぜんぜん怖がってないよ、さすがだなー。 でもって、水渦(みうず)さんが言ってた“ポ現”ってポルターガイスト現象の事ですか? これって略語? 社内用語なのかな? 「えー、続けます。黒十字様の情報ですが、住まいは戸建て持ち家、家族構成は50代のお母様と二人暮らし。お父様はここ何年も単身赴任で今は大阪だそうです。黒十字様本人のお仕事は……現在……働いてらっしゃらないみたいですね。それから……えぇ! なんと婚約者がいるそうです! 無職なのに大丈夫なの!? 近々結婚予定でお相手は……ん? ん、ん? エルフ……? ん? んー、すみません、よくわからないので、そっくり読み上げます。前世からお付き合いをされている、エルフのディニエルさんで……世界中が敵になっても2人の愛は不変だそうです……はい?」 言いながら僕の頭はハテナマークでいっぱいだった。 黒十字様の婚約者がお名前からして外国の方なんだろうなぁというのは、なんとなくわかる。 けど前世からお付き合いとか、その辺がよくわからない。
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