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ハンドルを握る水渦さんは無言で無表情だ。
だけどほんのり腐敗臭が漂ってきた事から不機嫌なのが窺える。
まあねぇ、どちらかというと女性の方が現実的だからなぁ。
きっと水渦さんは無職なのに結婚に踏み切るという暴挙が気に入らないのだろう……と勝手な想像に納得しかけていた時、ジャッキーさんが言った。
『いやぁ……どうも依頼者は濃いタイプの人みたいだねぇ。エルフと前世からのお付き合い、だもん。名前もディニエルさんだっけ? エイミーさん、その名前で検索してごらん? おそらくなんらか意味があるはずだよ、』
ジャッキーさんに言われて検索すると、“寡黙な娘”という言葉がヒットした。
そしてエルフというのもヨーロッパ方面の神話に出てくる種族名である事がわかった。
その種族の方々は、美しさと若さを持った不死(もしくは超長寿)で魔法も使えるそうなのだ。
え?
魔法ですか?
そんな非現実的な事を言っちゃいます?
ってまあ、僕ら霊媒師も指から電気出したりしてるから、人の事どうこう言えないけれど。
『ぶっちゃけ自分もゲーム、アニメ、ラノベは大好物だし、エルフが自分の嫁だったらと思った事は千、二千の回数じゃないからバカにするつもりはないけどさ』
千、二千の回数じゃない……って、ジャッキーさん、それ単位おかしいからね、ゼロ3つ多いからねッ!
『だけどね、やっぱり黒十字さんはズレてるよ。例えばだけど、自分がハウスクリーニングを頼むとしよう。ネットなりで調べて見つけて、初めて電話して予約を取る時に「5分で来い!」なんて怒鳴ったりは絶対にしない。ましてや聞かれてもないのに、二次元在住のエルフと結婚するだなんて受付の子に言ったりもしない。そういう事を平気で言えてしまうあたり……ポ現処理より依頼者に対して注意した方がいいかもね』
確かに……僕だって宅配ピザを頼む時、大福がいかにカワイイ猫かって話はしないもの。
今回、この応対注意の黒十字さんとメインで話すのは僕なんだよなぁ。
社長命令だから仕方ないけど大丈夫かなぁ。
猫の話なら自信があるけど、正直ゲーム、アニメ、ラノベは嗜む程度で深くない。
二次元愛の黒十字様……僕の応対でクレームを作る事だけはなんとしても避けたい。
本音を言えば、応対をジャッキーさんにお願いしたいトコだけど、なんたって入れ物がフィギュアだからねぇ……やっぱり僕がするしかないのだろう。
後部座席にいたジャッキーさんが『アイヤー!』の気合と共に跳躍し、助手席のヘッドレストに飛び移る。
軽く振り向くけば、目尻にシワを寄せたタレ目の笑顔がすぐ傍にあった。
『黒十字さんの事が大体わかった所で、現場に着いてからの手順を説明するよ。この現場では自分がリーダーだ。水渦さんとエイミーさんにケガ等させないよう、無事完了させるよう尽力するからね。まずは……』
ジャッキーさんの除霊計画を聞きながら、僕らを乗せた車は順調に道を進んでいく。
神奈川県にはもう入った、あと少しで到着だ。
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