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自宅に戻ると冷たい水で顔を洗い、そのまま手ですくった水をがぶ飲みした。
タオルで顔を拭きながらパソコンを立ち上げる。
狐につままれたような出来事の手掛かりは、霊媒師を募集しているあの会社だ。
僕は会社のホームページを開きその画面を見て再び短い悲鳴を上げた。
会社概要のページには、先月亡くなったとされる先代社長のメッセージと顔写真が掲載されていた。
これは…あのハローワークにいた老職員ではないか!
メッセージにはこう記されていた。
『……ご自身の力に気が付かない方が多くいらっしゃいます。潜在能力に気付き霊媒師になれば霊障にお困りの方の手助けができ、やりがいと喜びを得られるかもしれないのにもったいない事です。この先私が死んだら、そんなダイヤの原石を探し回ろうかと思っています。見つけ方は簡単です。人の集まる場所に行き、幽霊となった私を見つけ話ができる方を探せばいいのです。欲を言うなら、実体のない霊体の私に触る事が出来る方に巡り合いたいものです。霊体に触れるという事は相当な霊力を持っていないとできませんので……』
僕は先代のメッセージを10回は読み返し大きく息を吐いた。
今の今まで、幽霊なんて見た事もなければ興味もなかった。
だけど……パソコンのスクリーンに映る先代は、ハローワークにいた老職員に間違いない。
彼をぴしゃりと叩いた時の氷のような感触は、今もはっきり覚えている。
僕は手のひらをじっと見つめた。
「潜在能力……か、」
しばらく考え込んだ僕は、やがて手のひらをぎゅっと握った。
そして覚悟を決め、明日の会社面接の準備に取り掛かった。
第一章 霊媒師始まり__了
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