第十四章 霊媒師 ジャッキー

13/100
前へ
/2550ページ
次へ
◆ 一番近いコインパーキングに車を停めた僕達は、地図アプリの誘導で無事に黒十字様の家の前に到着した。 閑静な住宅街に建つのは、古すぎずない二階建て。 角地の特権か、まわりの住宅に比べて庭が広い。 庭の最奥には大きめの物置があり、その手前には小さな花壇と家庭菜園があるのだが、一帯、花も野菜も半分は枯れている。 途中、手入れが面倒になってしまったのだろうか? 茶色く変色した植物達はだらりと地に伏せていた。 『表札も合ってるし……ここで間違いないようですね』 僕の肩に座るジャッキーさんがそう言うと、水渦(みうず)さんも小さく頷いた。 会社を出る時に、更衣室に置いてあったという黒のパンツスーツに着替えた水渦(みうず)さんは、いつものラフな格好から一変、まるで雰囲気が違って見えた。 『エイミーさん、自分の荷物重たくない? 悪いね、持ってもらっちゃって』 そう恐縮するのは僕らのリーダーだ。 「ぜんぜん重くないですよ。ジャッキーさんのお祓い道具だと聞きました。大事に扱いますからね」 ジャッキーさんの七つ道具。 霊媒師は両手が塞がってはいけない、という事で社長がリュックサックにまとめてくれた物を僕が代わりに背負ってきたのだが、一体なにが入っているのだろう? 僕はジャケットの内ポケットを上からさわり、名刺ケースの感触を確かめた。 よし、準備は万端だ。 あとは黒十字様とお会いしてヒアリングから始めたいのだが…… 「岡村さん、インターフォンを鳴らす前に最後にもう一度、依頼者に電話をお願いします」 水渦(みうず)さんに言われて、僕は会社支給のスマホをタップした。 基本、現場に到着したら依頼者に電話もしくはメールをする事になっている。 そのマニュアルに乗っ取って、近所のコインパーキングに着いた時、一度かけてはいるのだが10コール以上呼び出しても応答がなかった。 まさかだけど、依頼自体がイタズラだったなんてコト言わないよねぇ……? プルルルルル、、 2回目の到着連絡。 聞き馴染のあるコール音が延々に続くと不安が大きくなってくる。 やっぱりイタズラだったのかなぁ、だとしたらヒドイなぁ。 この家の黒十字様はまったくの無関係だったらどうしよう……なんて焦り始めた時、 (はい、) 出たーーーーーーっ!! 僕は手振り身振りで応答があった事を2人に伝えながら、同時に営業用の声を出した。 「黒十字様でいらっしゃいますか? 私、株式会社おくりびの岡村と申します。この度はご依頼いただ、」 (こもれび(・・・・)のヤツか! 来んのがおっせーよっ!!) うわぁ、いきなり怒鳴られた。 温度高いなー。 けどこの感じ、めちゃくちゃ懐かしいよ。 前職のお客様相談センターでは、毎日こうした怒鳴り声を頂いていたんだよなぁ。 あ、それから黒十字様、会社名間違ってます。 ウチは株式会社こもれび(・・・・)じゃなくて、おくりび(・・・・)ですから。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加