第十四章 霊媒師 ジャッキー

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◆ 鍵がかかっていれば____ 中に入るのは諦めましょうと言えたのに、こういう時に限ってドアは無施錠だった。 薄く開けたドアを手前に引こうとする水渦(みうず)さんに、僕は寸前で待ったをかけた。 「み、水渦(みうず)さん! ちょっと待ってください!」 仕事の依頼とはいえ、初めて訪れた他人の家のドアを無断で開けてしまっては色々と問題が生じる。 確かに黒十字様との電話が切れる寸前、『助けて』とは言ってたよ? だけど勝手に家の中に入って、もし黒十字様が不法侵入だと騒ぎ立てたら、僕らは警察のご厄介になる事になる。 ここはひとつ慎重にいったほうがいいんじゃないか? 僕の意見に水渦(みうず)さんは、ドアノブに手をかけたまま黙り込んでいるのだが『じゃあどうすんだよ?』という無言の圧をヒシヒシと感じていた。 ん……そうだ、ジャッキーさんはどう思っているのかな? 『エイミーさんの言う事にも一理あると思うけど、自分は黒十字様の安否確認の為にも行くべきだと思う。ただ強制はできない。もし不法侵入だと警察を呼ばれた場合、大変な思いをするのは君達だ。身体(ほんたい)が自宅にある自分は、1人だけ安全な場所にいるようなものだからね。ああ、これだから在宅は……自分はリーダー失格だな、すまない』 そう言って項垂れるジャッキーさんに僕は慌ててとりなした。 「すみません! 僕、ジャッキーさんを責めるつもりじゃなかったんです。ジャッキーさんのスタイルとして在宅勤務なのは前からですし、リーダー失格だなんて思ってないです!」 『いや、だけど、自分だけ安全な場所にいるのは本当の事だし、』 「それは仕方ないです!」 男2人で『僕が』『自分が』と言い合っていても埒があかない、そこに気付いた僕とジャッキーさんは同時に溜息をついた。 はぁ……どうするのが最善なんだろうか……? 「で、どうします? ドア、開けますか? 開けませんか?」 能面のような顔をした水渦(みうず)さんが、僕をじっと見詰めている。 『強制できない』というジャッキーさんは、踏み込むか否かの判断を僕と水渦(みうず)さんに委ねている。 水渦(みうず)さんとしては踏み込む気があるようで、躊躇する僕に最終確認を取りたいようだ。 どうしよう、どうしたらいいんだろう? こんな時、社長ならどうするかな……? 社長なら………… 「……ではこうしましょう、僕とジャッキーさんで家の中に入りますから、水渦(みうず)さんは外で待機しててください」 きっと、こう言うんじゃないだろうか。 最悪、警察のご厄介になるとしても僕一人だ、この方法なら2人を守る事ができる。 特に水渦(みうず)さんは女性だもの、無茶はさせたくない。 今の今まで補導すらされた事のない僕は、ちょっと怖いと思ったけれど、黒十字様の安否も気になる。 誰かが行かなくちゃダメなんだ。 そう覚悟を決めたのに、目の前の水渦(みうず)さんは眉間のシワをめり込ませるほど深く寄せ、僕にこう言った。 「その判断、社長の受け売りですか?」 なぬ!? 「いや、受け売りと言いますか……どうして良いか分からなかったので、社長ならどうするかなぁとは考えましたけど、あれ? マズかったですかね? ははは」 不機嫌そうな水渦(みうず)さんに曖昧に笑いつつ様子を見る事にしたけど……なんで怒ってるの? 水渦(みうず)さんの安全を考えたからこその案なのに。 「やはりそうですか、大きなお世話です。私が待機なのは女だからでしょう? 言っておきますが、私は警察に捕まるくらいの事では怯みませんよ?」 あ、そういや元カウンターバー襲撃犯だったよ、この人。 「それに、期待の新人さんは放電しかできませんよね? 教えた印も手指が硬くて組み切れてないですよね? 私も行きます。いくら志村さんがハイスキルでも、ここまで素人では足を引っ張るのが目に見えていますから」 ぐぬぅ……否定しきれない、 「だけどッ!」 言いかけた僕に背を向けた水渦(みうず)さんは、 「黙ってろ、ド新人」 とだけ吐き捨て、勢いよくドアを開けた。
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