第十四章 霊媒師 ジャッキー

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最初は水渦(みうず)さんの機嫌が悪いのかと思った。 開き直って玄関に足を踏み入れたその瞬間、鼻を押さえたくなるような悪臭が流れてきたからだ。 だけど当の水渦(みうず)さんはなんだか機嫌が良さそうで、近づくと今日飲んだクランベリーティーの香りがほのかに漂ってきた……という事はこの悪臭はこの家のものなだろうな。 玄関を入ってすぐ左手に階段が、右手には光取りの擦りガラスが嵌め込まれたドアがあった。 僕の実家もそうだけど、典型的な建売住宅の間取りなのだろう。 きっと擦りガラスのドアの向こうはリビングダイニングキッチンと小さな和室があるはずだ。 そして2階に続く階段を上がると、個室が2~3あるに違いない。 『エイミーさん、黒十字様にお声掛けしてくれる? 2階にいるかもしれないから大きな声でお願い』 リーダーの指示に頷いた僕は、玄関たたきから気持ち背伸びをし、中を窺うように大声を出した。 「黒十字様ー? 私、株式会社おくりびの岡村でございますー! 先程、お電話の途中で切れてしまい『助けて』とのお言葉が心配で、ご自宅にお邪魔させて頂いてますー! 黒十字様―? どちらにいらっしゃいますかー?」 言いながらふと横を見れば水渦(みうず)さんが、タブレット端末で僕を撮影していた。 「ちょ! 水渦(みうず)さん、何やってるんですか! こんな時に遊ばないでください!」 「遊んでいるのではありません。不法侵入の疑いをかけられない為、こうして岡村さんが依頼者に声をかけている所を証拠として残しているのです。まぁ、これがどこまで有利に働くかは分かりませんが、無いよりはマシでしょう」 なるほど、そういった記録を残しておくのは良いかもしれないぞ。 よし、それなら状況が分かりやすいように、もっと説明口調でお声掛けをしよう! 「黒十字様ー! 本日はお祓いのご依頼を頂きまして、誠にありがとうございますー! ポルターガイスト現象の調子はいかがでございますかー? 黒十字様をお助けに、玄関で待機中でございますー! もし宜しければ宅内にお邪魔してもよろしいでしょうかー?」 こんなんで、どっすか!? さすがに親指を立てる訳にはいかないので、ジャッキーさんよろしく水渦(みうず)さんに目配せをした、が、「余計に怪しいですね」と一掃されてしまった。 えぇ……ダメでした? ____レビィ…… ん? 今、なにか聞こえなかった? ____コモレビィ…… 気のせいじゃない、“こもれびぃ”と聞こえた。 これ、黒十字様じゃないの? 「黒十字様ー! どちらにいらっしゃいますかー?」 ____2階だ……助けてくれ、怖い、 「2階ですねー? お邪魔してよろしいですかー?」 ____早く来い、ボケェ、 「ハイ、許可頂きましたーッ! 水渦(みうず)さん、ジャッキーさん、2階に行きましょう!」
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