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◆
靴を脱ぎ捨て、ジャッキーさん、水渦さん、僕の順で階段を駆け上がる。
昇り切った先には短い廊下があり、ずれた左右と突き当りにはそれぞれ閉ざされたドアがあった……が、
「これって……」
そこはひどく雑然としていた。
廊下を埋め尽くすのは大量の衣服と肌着。
どれもこれも、たたまれてはおらずグチャグチャなまま投げ出されていた。
おそらく……汚れた洗濯物なのだろうな。
皮脂と汚れが混ざり合い、それを長く放置したようなすえた臭いが鼻についた。
(こもれびぃ! 岡村さんっ! まだか!)
必死の大声が壁の向こうから聞こえてきた。
この3枚のドアのうち、1つが黒十字様の自室なのだろう。
僕は1番近いドアを開けてみた。
「失礼します、」
途端、強いアンモニア臭が目と鼻を刺激する。
「トイレ、ですね」
鼻を押さえた水渦さんが淡々と呟いた。
一体どれだけ掃除をしなかったらこんな風になってしまうのだろう?
上がったままの便座には点々とした黄色い跡がびっしりと、便器に至っては褐色にこびり付いた汚れが見るに耐えなかった。
僕は無言でドアを閉め、脳内から衝撃的なトイレ映像を追い払うべく頭を振った。
『あのドア、あれが黒十字様の部屋じゃないかな?』
汚れた洗濯物を足でどけ、小さく顔を出したフローリングに立つジャッキーさんが指を指すのは突き当りのドアだった。
なぜあの部屋だと?
その根拠を見つけようと良く見れば、洗濯物の下に何か別なものが埋まっているようだ。
「あれは……」
くたっとした布製の物の中に紛れているのは……お盆と……お皿と……コップ……?
全容が見えないからハッキリとは言えないが、お盆に乗せられた食器……すなわち一食分の食事だったのではないだろうか?
『ここまで食事を運んでもらっていたのだろうね』
部屋の前まで食事を?
黒十字様は体調を崩されていたのだろうか?
それとも別の理由があった?
『食事は部屋でとり、そして汚れた洗濯物を部屋の前に出して、それをお母様が回収し、洗った物を部屋の前に置いておく……だけど今はそれが機能してないようだ、』
ドキンと心臓が鳴った。
依頼者情報によると黒十字様は現在働いてらっしゃらないとあった。
その理由はわからない、ご病気なのかなんなのか。
ただ、電話でお話したご様子では体調不良とは考えにくい。
だとすると、
『引きこもっているのかもしれないね』
そう言ったジャッキーさんは、なんだかとても辛そうだった。
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