第六章 霊媒師OJT-2

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…… ………… これはもしかして田所さんにも同じ事が言えるんじゃないだろうか? 僕が田所さんについて知っている事は、ネットの中で見た古い事件の記事だけだ。 直接田所さんに聞いた訳でもないただの情報だ。 田所さんに成仏してもらいたいなら、田所さんともっと話をして田所さんの気持ちを、望みを知るところから始めなくちゃいけない気がする。 そしてこれが霊媒師としてのスキルがゼロに等しい僕が今、唯一できる事なんじゃないだろうか……? 「あの……田所さん! 僕は霊媒師見習いの岡村英海と言います。僕はあなたが娘さんを守る為にずっとここで闘っている事を知っています! 傷はまだ痛みますか? 寒くはないですか? おなかすいてないですか? 僕はあなたと話がしたいです! あなたに何が起こったのか、あなたの気持ち、あなたの望み、あなたの全てが知りたい!」 つい力が入って勢いで喋ってしまったけど、ちょっとまずかったかな……? 自他ともに認める地味系男子である僕だから、軽そうなナンパには見えないはずだ。 それでも初対面の女性に向かっていきなり“あなたの全てが知りたい”なんて、怪しすぎるし失礼だ。 僕は慌てて言い直した。 「あ、ごめんなさい! その、すべてが知りたいっていっても変な意味じゃなくてですね、その、えっと、」 前職の時はもっと滑らかに、言葉を間違える事無く話す事ができたのに、なぜこの女性の前ではこんなにもしどろもどろになってしまうのか。 幽霊だからか? いや、多分そうじゃない。 僕と田所さんを繋ぐ電流、そこから伝わってくる微かな振動。 これは彼女が怯えている証拠だ。 田所さんは僕を前に両手を広げ睨みつけてはいるけれど、生前あんな姿になる程暴力を振るわれて、僕と加害者の旦那さんを被らせているのか……今度は僕から殴られるかもしれないと震えているのだ。 それでも娘さんを守る盾となる為、無理矢理恐怖を押さえ込んで立ちはだかっている。 その想いが分かってしまえば、気持ちばかりが焦ってしまう。 違うんだ、わかってほしい。 僕は決して田所さんに乱暴な事はしません。 だからどうかお願いです。 怯えないで、落ち着いて、僕の目を視て、あなたの事を聞かせてほしい。
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