第十四章 霊媒師 ジャッキー

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事務所で僕に見せたように、ジャッキーさんは華麗な演武を披露し始めた。 ただ今回、足元があまりに悪いせいか、床の演技はほとんどなく、壁の一部やパソコンモニターを足場に蹴り飛びまくり、重力を無視をした動きで僕らを圧巻させた。 『ハイッ! ハイッ! ハイハイハイハイィィッ! ホワチャァァァァッ!!』 更なる気合と共に出したのは腰に装備のヌンチャク2対。 弾丸のごとく飛び回り、いつの間に僕と黒十字様の目の前まで来たジャッキーさんは、足でゴミを払いスペースを確保した。 そして回す回す、これでもかとヌンチャクを振り回しながら、 『アーーーーータタタタタタタタタタタタタタタタッ!! オワッタァーッ!!』 と叫んでからのキメポーズ。 てか、アーーータタタタタタって、もうチェンじゃないじゃん、それケンじゃん。 黒十字様は胸に(いだ)く、耳の尖った婚約者とアクティブすぎるジャッキーさんを交互に、そしてエンドレスに視線を動かし、 「おか、おか、おか、むら、むら、むらぁ……!」 動揺しすぎで僕の名前を分解して呼んでいた。 「フィギュアが動く? 信じますとも」 僕の一言で霊媒師一同、大きく頷くと、「そ、そうなの?」と疑問を投げるは黒十字様。 いやそれ、アナタも言ってたでしょうよ。 腰にヌンチャクを戻したジャッキーさんが、スッと一歩前に出た。 『初めまして、黒十字様。志村と申します。自分の声は聞こえますか?』 「うわぁぁぁぁッ!! なんだコレ!! 頭の中に直接声が!! さっきから聞こえてたのは気のせいじゃなかったのか!! 動くし! 喋るし! 気持ち悪ーッ!! 寄るな化け物ーッ!!」 ちょ、化け物ってヒドくない? ディニエルさんは良くてジャッキーさんはダメってどんな線引き? 『んー、困ったな……声は聞こえるみたいだけど、パニックにさせてしまった。話ができる状態じゃないよ。ディニエルさんが動くし喋るというから、自分も受け入れてくれると思ったのに……』 ポリポリと鼻を掻いて困ったポーズをするジャッキーさん。 それまで黙って見ていた水渦(みうず)さんは、 「面倒ですね。一発平手でもお見舞いして目を覚ませましょうか?」 と客商売完全失格な事を言い出した。 ダメにきまってんでしょう。 『いや、さすがにそれは……仕方ない。要は落ち着いてくれたらいいんだよね? もしかしたらコレがいけるかもしれない』 ジャッキーさんは、散乱したゴミの山から一部顔を出した本に目をやった。 あれは……? 漫画本? タイトルを見ても僕にはよくわからない。 漫画好きの弥生さんなら知ってるのだろうか? 『…………(はく)よ……』 ナニ……!? いきなり名前呼び!? しかも呼び捨て!? でもってキャラ変わった!? 先程までの普通の話し方から一変、威厳すら感じさせる力強い低音ボイス……ジャッキーさん、一体どうしようと言うんです? 『力が欲しいか……、』 チカラ? なにそれ? お近づきの印にナニかプレゼントするの? と頭にハテナマークを浮かべる僕の隣で、黒十字様はガバっと顔を上げた。 真剣そのものの表情である。 『(はく)よ……力を望むか』 ディニエルさんを抱いたまま、黒十字様は瞬きすらせずジャッキーさんの語りに集中し、どこか高揚しているように見える。 この時、彼のパニックは完全に治まっていた。 え……? 一瞬で……? コレ……なんの呪文?
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