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事務所で僕に見せたように、ジャッキーさんは華麗な演武を披露し始めた。
ただ今回、足元があまりに悪いせいか、床の演技はほとんどなく、壁の一部やパソコンモニターを足場に蹴り飛びまくり、重力を無視をした動きで僕らを圧巻させた。
『ハイッ! ハイッ! ハイハイハイハイィィッ! ホワチャァァァァッ!!』
更なる気合と共に出したのは腰に装備のヌンチャク2対。
弾丸のごとく飛び回り、いつの間に僕と黒十字様の目の前まで来たジャッキーさんは、足でゴミを払いスペースを確保した。
そして回す回す、これでもかとヌンチャクを振り回しながら、
『アーーーーータタタタタタタタタタタタタタタタッ!! オワッタァーッ!!』
と叫んでからのキメポーズ。
てか、アーーータタタタタタって、もうチェンじゃないじゃん、それケンじゃん。
黒十字様は胸に抱く、耳の尖った婚約者とアクティブすぎるジャッキーさんを交互に、そしてエンドレスに視線を動かし、
「おか、おか、おか、むら、むら、むらぁ……!」
動揺しすぎで僕の名前を分解して呼んでいた。
「フィギュアが動く? 信じますとも」
僕の一言で霊媒師一同、大きく頷くと、「そ、そうなの?」と疑問を投げるは黒十字様。
いやそれ、アナタも言ってたでしょうよ。
腰にヌンチャクを戻したジャッキーさんが、スッと一歩前に出た。
『初めまして、黒十字様。志村と申します。自分の声は聞こえますか?』
「うわぁぁぁぁッ!! なんだコレ!! 頭の中に直接声が!! さっきから聞こえてたのは気のせいじゃなかったのか!! 動くし! 喋るし! 気持ち悪ーッ!! 寄るな化け物ーッ!!」
ちょ、化け物ってヒドくない?
ディニエルさんは良くてジャッキーさんはダメってどんな線引き?
『んー、困ったな……声は聞こえるみたいだけど、パニックにさせてしまった。話ができる状態じゃないよ。ディニエルさんが動くし喋るというから、自分も受け入れてくれると思ったのに……』
ポリポリと鼻を掻いて困ったポーズをするジャッキーさん。
それまで黙って見ていた水渦さんは、
「面倒ですね。一発平手でもお見舞いして目を覚ませましょうか?」
と客商売完全失格な事を言い出した。
ダメにきまってんでしょう。
『いや、さすがにそれは……仕方ない。要は落ち着いてくれたらいいんだよね? もしかしたらコレがいけるかもしれない』
ジャッキーさんは、散乱したゴミの山から一部顔を出した本に目をやった。
あれは……?
漫画本?
タイトルを見ても僕にはよくわからない。
漫画好きの弥生さんなら知ってるのだろうか?
『…………白よ……』
ナニ……!?
いきなり名前呼び!?
しかも呼び捨て!?
でもってキャラ変わった!?
先程までの普通の話し方から一変、威厳すら感じさせる力強い低音ボイス……ジャッキーさん、一体どうしようと言うんです?
『力が欲しいか……、』
チカラ?
なにそれ?
お近づきの印にナニかプレゼントするの?
と頭にハテナマークを浮かべる僕の隣で、黒十字様はガバっと顔を上げた。
真剣そのものの表情である。
『白よ……力を望むか』
ディニエルさんを抱いたまま、黒十字様は瞬きすらせずジャッキーさんの語りに集中し、どこか高揚しているように見える。
この時、彼のパニックは完全に治まっていた。
え……?
一瞬で……?
コレ……なんの呪文?
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