第六章 霊媒師OJT-2

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田所さんに軟化の兆しは視えない。 どうしたら解ってもらえるのだろう? これじゃあ話を聞かせてもらう以前の問題だ……と頭を抱えていたその時、 『………、……ッ』 ノイズめいた何かが聞こえた。 『……タハ…………ノ』 ラジオのチューリングを合わせている最中のような、切れ切れに、所々人の声が混じり、 『アナた……ナニ……?』 「田所さん……?」 『ワタシ……ノ……ナニ……』 「なんですか……? なにか言いたい事があるんですね? それは、」 途中、カチリとチューリングが合った気がした。 そして次の瞬間。 ゴォッッ! 向かう熱風が吹いた。 肌が焼けるような痛みに固く目を閉じ両手で顔を庇う。 ほんの数瞬、視る事を放棄したその時、 ドンッッ! 身体に強い衝撃を受けた。 同時に強まる鉄の臭気。 不安、怒り、悲しみ、怨み、憤り、あらゆる負の感情が熱に溶かされた鉛となって重く僕の全身を潰していく。 汗が噴き出る。 喉に氷のような指が食い込んできた。 圧迫される苦しさに目が霞む。 氷の指をほどこうともがいても力で敵わない。 仰け反った僕の眼前には赤黒い肉塊が追ってくる。 蠢く肉塊の下半分が糸を引きながら大きく開いた。 顔を背けたくなるような腐敗臭。 そして怒声。 『おまえアイツじゃないのか……!! なら誰だ!! 私の全てが知りたいだって!? 話したところでおまえに何が解る!! 殴られた事も殺された事もないくせに!! 命にかえても守りたいものもないくせに!! きれいな顔してるくせに!! 何が解るの!! 口だけなら何とでも言えるじゃないっ!! 出しゃばるな!! 出て行け!! 消えてしまえぇぇッ!!』 僕はかつてないほど身体を震わせていた。 怖い、 苦しい、 痛い、 今すぐ逃げたい、 もういやだ、 やっぱり僕には霊媒師なんて無理だったんだ、 辞めよう、 社長には悪いけど辞表を出そう、 誰か助けて、 僕が思い上がってました、 離してください、 許してください、 許して、 離して、 苦しい、 息が、 死んじゃうよ____
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