第十四章 霊媒師 ジャッキー

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「岡村さん、鎖がひいています。釣り上げてください。それから増幅の印、残り時間はあと4分」 僕の肩に手を置いた水渦(みうず)さんが、印のリミットを告げる。 同時に無数蠢く鎖が強い力で引っ張られ、それは黒十字邸の内外をうろつく幽霊を捕獲した事を意味していた。 「ありがとうございます。一気に釣り上げます」 残り時間が少ない。 捕らえた幽霊を一発で引き上げる為、僕は眉間に力を込めて集中し、手の中の核を通して高輝度の光の珠を鎖に流し込んだ。 珠はくねる鎖を滑るように移動して先端に絡む幽霊に吸着する。 吸着した光の珠は、蜘蛛の巣のように広がって幽体を捕らえて離さない。 指先に伝わる感触に捕獲の確信を得た所で、それを一気に引き上げる、すると。 『がぁぁぁぁぁぁッ!!!』 醜悪な叫びと共に、一体の幽霊が部屋に転がり込んできた。 『……ッ! クソッ! やられた! おまえらが(はく)に雇われた霊媒師共かぁッ! こんなコトしてタダで済むと思うなよ! 呪ってやるからなぁぁああああ!!!』 胸の位置で両腕ごと鎖に縛られた幽霊は、見た目年齢40代前半の男性だった。 脂ぎった肩までの髪を振り乱し、眼球が零れそうな程に見開いた目で僕を睨みつける。 ヒィィィィィ! め、目が怖いぃぃ……! めっちゃ視てるよーーーッ! 40代幽霊は解けない鎖に怒りを撒き散らし、逃れられない拘束にグニグニと霊体(からだ)を捩り仰け反ると、 『うがぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!』 野獣のような雄叫びを上げて床を蹴り、一瞬の間もないスピードで僕の顔寸前にまで迫った。 キャァァァァァァァ!! 近いぃぃぃぃぃぃぃ!! ぶつかるぅぅぅぅぅ!! 正直、ちびりそうだった。 それでもなんとか堪え平静を装っていると、 『うぉぉおおおおお!! 生意気なヤツだぁぁぁ!! おまえぇぇぇ!! 俺が怖くないのかーーーッ!?』 40代幽霊、本気の咆哮。 口から漂う甘ったるい匂いがなんとも気持ち悪かった。 で、 ____怖くないのか? この質問の解答ですが、 怖いに決まってんでしょぉぉぉぉ! 当たり前のコト聞かないでよぉぉぉぉ! できることなら今すぐオウチに帰りたい! だがそうもいかないのだ……! 黒十字様が子犬のような顔で見てるんだもの! だから僕は、なけなしの勇気を振り絞り精一杯の見栄を張った。 「あなたが怖い? ……笑止! 私は霊媒師です。幽霊を恐れていたら仕事になりません」 本当は泣きたいくらいビビってるけどね! “笑止!”は大福のマネっこだけどね!
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