第十四章 霊媒師 ジャッキー

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植物のような甘ったるい匂いが僕のすぐ近くに漂った。 40代幽霊の足が、僕の頭を、顔を、肩を、背中を、気持ち悪いほどにさすってくる。 『やっぱり触れるよなぁ……だけどコイツ、死人とは思えないんだよなぁ』 僕は無視を決め込んだ。 下手に説明して乱暴な事をされても困る。 40代幽霊はガタイがいい。 今はあまり見ない、ストーンウォッシュ加工のジーンズに(父の若かりし頃の写真で見たコトがある)チェックのネルシャツ、脂ぎった長髪にはペーズリー柄のピンクのバンダナ。 一昔前のオタクさんスタイルには似つかわしくない程のマッチョボディは見るからに強そうだ。 こんな幽霊(ひと)に肉弾戦を挑まれたら2秒で負ける。 ____それからよ、岡村。 ____おまえ少し身体鍛えた方がいいぞ。 ____こんな貧相な身体じゃよ、いざ喧嘩になっても勝てねぇだろ? 先日、ユリちゃんのお爺さんが僕に言った言葉が思い出された。 誰かと喧嘩する機会が皆無ゆえ、必要ないと聞き流していたけれど……こういう時の為に多少鍛えた方がいいのかもしれないな。 40代幽霊はブツブツ言いながら、黒十字様に近づくとその身体に触れようと手を伸ばした____が、当然、物理干渉は叶わない。 『……やっぱり生きた人間に触るコトはできないよなぁ。という事は、この霊媒師サマだけ特別に触るコトができるのか。それなら……もし俺が、霊媒師サマを思いっきり蹴り上げたらどうなるんだろうなぁ? ヒッヒッヒ……蹴って蹴って蹴りまくってボコボコにしてよ、玉っころから手が離れれば、俺らも解放されるんじゃねぇか?』 ヤバい……! 俯いた僕の視界にストーンウォッシュの脚が見えた。 その片方が後ろに大きく反れる。 この位置。 僕の顔を蹴るつもりか。 いいさ、やれよ。 なにがあっても核は守るから。 『喰らえ』 短い一言に僕は身を縮め衝撃に備えた。
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