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『な、なんだよ、ブスにブスと言って何が悪い……んですか……、』
言い訳する40代幽霊の目は泳ぎまくっていた。
なんなんだ、この人は。
こちらが少し強く出ただけで態度がまるで違うじゃないか。
怒りに任せて怒鳴ってしまったけれど誤解しないでほしい。
僕は別に喧嘩をしたい訳でも、アナタを責めたい訳でもないのだ。
ただ、
「いいから、さっきの発言を取り消してください。人前で女性の容姿を貶すなんて男として恥ずかしくないんですか?」
心無い言葉を取り消し、あやまってほしいだけだ。
『いや……その……冗談だよ。わかった、取り消すよ。そこの姉ちゃんはブスじゃない。あやまる、この通りだ。だからお願い、早くこの矢を抜いてくれ。本当に痛いんだよ』
瀕死の米つきバッタか……?
ってくらい何度も頭を下げる40代幽霊に、当の水渦さんは、
「謝罪の必要はありません。あなたのおっしゃる通り、私は正真正銘の醜女です。あなたの発言は視たままを述べたに過ぎないのですから、もっと堂々とされたらいかがです?」
取り付く島もなく謝罪拒否。
『いや……え? あやまってるのに? どうしたらいいんだ……?』
頑なな水渦さんの態度と射るような鋭い目。
早くも白旗をあげる40代幽霊に、僕の中では少々同情の念が生まれていた。
わかるよ……僕も初めて水渦さんに会った時、あの目でじっと見られてすごく怖かったもの。
なんていうか、彼女に凝視されると「もう逃げられない!」って思うのよね。
蛇に睨まれたカエル状態。
そのカエルは足の痛みに耐えつつも再び口を開くとこう続けた。
『本当に悪かったよ。俺……人のコトどうこう言える容姿じゃないのにな。俺が生きてた頃……90年代は総じてオタクに厳しい時代だった。アニメが好きなんて根暗、友達いないの?、タクハチ、シャツイン、缶バッチが二次元……エトセトラエトセトラ……純粋にアニメが好きなだけなのに、誰にも迷惑かけてないのに、見た目がキモイと罵倒され辛かったはずなのに、俺、同じ事をお姉さんに言ったんだ、』
額のピンクのバンダナは、滲む汗を吸い取っているのか色が一段濃くなっている……それだけ足が痛むのだろう。
なのに、改めて真面目に謝った40代幽霊は、謝罪はしっかりしたものの矢を抜いてくれとは一言も言わなかった。
自分の要望よりも水渦さんへの謝罪を優先させたって事じゃないだろうか?
「ねぇ水渦さん、この幽霊ちゃんと謝ってくれたし、そろそろ矢を抜いてあげましょうよ。きっともう乱暴な事はしないと思いますし。ねっ? そうですよね?」
僕の問いかけに40代幽霊はコクコクと頷いている。
「謝罪の必要は無いと言いましたのに……ですが良いでしょう。このままでは埒が明かないので矢は取り除いてあげます。
そのかわり、なぜ黒十字様に憑りついたのか、今後成仏する気はあるのか、その他こちらからの質問全て、正直に答えていただきます。もし虚偽の発言をした場合、40代幽霊だけではありません、誰であっても矢で打ちますので覚悟してください。
そちらの幽霊達も解りましたね?」
ふっと顔を歪ませ(たぶん微笑んでる)振り返る水渦さんに、ポ現容疑者達はヘドバンかってくらい頷きまくっていた。
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