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「あの……ピ、ピンクバンダー……氏って、僕が呼んでもいいのかな……?」
25人目の幽霊の存在を確かめるべく、ピンクバンダー氏に声を掛けた。
僕の声が明らかに小さいのは、まだ一人称が『俺』だった時の彼に、さんざん脅され顔まで蹴られそうになったからだ。
水渦さんにシメられ、ジャッキーさんと打ち解けた今でこそ、オタク色全開でファニーな雰囲気だけど、怖かった印象が残っちゃってるんだよね。
『ん? あ……あんた、いや、岡村さん、でしたよね?』
僕の顔を見るなり、普通の話し方に戻ったピンクバンダー氏は、なんだか決まり悪そうだった。
なんだ?
僕と話すのは嫌なのかな?
ジャッキーさんとはめっちゃ楽しそうに話してたのに。
僕がオタクじゃないから線を引いているのか、呼び方が気に入らないのか、それとも両方なのか。
「その、僕がピンクバンダー氏だなんて馴れ馴れしいですよね。あなたの本当のお名前が分からなかったので、」
すみません、と続けようとした僕の言葉を聞くよりも早く、ピンクバンダー氏は何を思ったのか、その場に崩れるように土下座した。
え!?
ちょ!?
なにしてんの!?
土下座をする事はあっても、される事に慣れていない僕は動揺しすぎで、思わずその場に正座してしまう。
『いや! ピンクバンダーでもクズ野郎でもなんとでも呼んでください! さっきはすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
や、ちょ、落ち着いてくださいって!
その土下座はやっぱり、‘’顔面を蹴ろうとした件”、についてですか……ね?
『信じてもらえないかもしれないけど、岡村さんの顔を本気で蹴ろうとは思ってなかったんです。ちょっと脅かすつもりで……ジャッキー氏の大事な部下さんなのに……俺……すみません、本当にすみませんでした、』
床に額を擦りつけ、何度も何度も謝るピンクバンダー氏。
はち切れそうなネルシャツの、大きな背中が小刻みに震えていた。
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