第十四章 霊媒師 ジャッキー

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◆ 全力でなだめすかして、なんとか剥がれてくれたピンクバンダー氏だったが、僕のジャケットは彼の涙と鼻水が付着して、そのシミはまるでロールシャッハテストに使う、あのインク絵のように視えた。 えんがちょレベルのジャケットに愕然とする僕を取り囲むのは、黒十字様に憑りつく愉快なオタク幽霊達だ。 僕と似たような感性なのか、幽霊達(かれら)はピンクバンダー氏の鼻水&涙のシミをジロジロ見つめて頷き合うと、負のロールシャッハテストを始めた。 『この部分が広げた翼に見えます……これはフェニックスでしね、ぷぷっ』 『なにを言うか! このライン、これはレキナのニーハイですぞ! デュフフフ……』 『いいえ、これは明らかに単発式銃火器ですわぁ』 『いやいやこれは防御系魔方陣でござるよ!』 ダメだ。 この幽霊達(このひとたち)、なにを視ても聞いても遊びにしてしまう。 なんでも楽しめるのはイイコトだけど、幽霊達(かれら)のテンションに付き合っていたらココの現場は永遠に終わらない。 僕は強引に話を元に戻した。 「ハイ、もう終わりですよー! ロールシャッハテストはこれにて強制終了させていただきまーす! ハイ、注目ー! みなさんに教えていただきたい事がありまーす!」 僕を囲む円陣はそのままに、幽霊達(かれら)に本命の質問を投げかけた。 「先程ピンクバンダー氏が言ってましたよね? ここに暮らす幽霊のみなさんは全部で25人だと。ですがここには24人しかいません。あと1人はどこにいるんですか?」 すると、 『明け方までは、この部屋にいましたぞ!』 『毎朝、近所の犬の散歩を視に行くのが、お嬢の日課でござる』 『あのガキんちょ方向音痴ネ、2回曲がるト現在地わからなくなるダヨ』 『サンタマリアの名において……本日はお見かけしておりません』 『簡易マトショーシカで寝てるんじゃないかしら?』 『ボソボソボソ……ボソ……ボソボソボソボソ……』 『お嬢の徘徊はいつもの事。時間をかければ無事戻りましょうぞ』 いっぺんに喋り出す幽霊達(かれら)の話をまとめると、【お嬢】とか【ガキんちょ】とか呼ばれてるから小さな女の子なのかな? 明け方まではこの部屋にいて、そのあと近所の犬の散歩を視に行った。 でもって2回曲がると現在地を見失う程の方向音痴だが、時間をかければ戻ってこれる……このくらいかな、役に立ちそうな証言は(意味なさそうなのも混ざってたし)。
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