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全力でなだめすかして、なんとか剥がれてくれたピンクバンダー氏だったが、僕のジャケットは彼の涙と鼻水が付着して、そのシミはまるでロールシャッハテストに使う、あのインク絵のように視えた。
えんがちょレベルのジャケットに愕然とする僕を取り囲むのは、黒十字様に憑りつく愉快なオタク幽霊達だ。
僕と似たような感性なのか、幽霊達はピンクバンダー氏の鼻水&涙のシミをジロジロ見つめて頷き合うと、負のロールシャッハテストを始めた。
『この部分が広げた翼に見えます……これはフェニックスでしね、ぷぷっ』
『なにを言うか! このライン、これはレキナのニーハイですぞ! デュフフフ……』
『いいえ、これは明らかに単発式銃火器ですわぁ』
『いやいやこれは防御系魔方陣でござるよ!』
ダメだ。
この幽霊達、なにを視ても聞いても遊びにしてしまう。
なんでも楽しめるのはイイコトだけど、幽霊達のテンションに付き合っていたらココの現場は永遠に終わらない。
僕は強引に話を元に戻した。
「ハイ、もう終わりですよー! ロールシャッハテストはこれにて強制終了させていただきまーす! ハイ、注目ー! みなさんに教えていただきたい事がありまーす!」
僕を囲む円陣はそのままに、幽霊達に本命の質問を投げかけた。
「先程ピンクバンダー氏が言ってましたよね? ここに暮らす幽霊のみなさんは全部で25人だと。ですがここには24人しかいません。あと1人はどこにいるんですか?」
すると、
『明け方までは、この部屋にいましたぞ!』
『毎朝、近所の犬の散歩を視に行くのが、お嬢の日課でござる』
『あのガキんちょ方向音痴ネ、2回曲がるト現在地わからなくなるダヨ』
『サンタマリアの名において……本日はお見かけしておりません』
『簡易マトショーシカで寝てるんじゃないかしら?』
『ボソボソボソ……ボソ……ボソボソボソボソ……』
『お嬢の徘徊はいつもの事。時間をかければ無事戻りましょうぞ』
いっぺんに喋り出す幽霊達の話をまとめると、【お嬢】とか【ガキんちょ】とか呼ばれてるから小さな女の子なのかな?
明け方まではこの部屋にいて、そのあと近所の犬の散歩を視に行った。
でもって2回曲がると現在地を見失う程の方向音痴だが、時間をかければ戻ってこれる……このくらいかな、役に立ちそうな証言は(意味なさそうなのも混ざってたし)。
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