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永遠とも思える気まずい沈黙。
すぐ目の前の潰れた顔から表情は読み取れないけど、強い困惑の感情と自分に向けられた強烈な嫌悪感、まるで汚い物でも見るような軽蔑の眼差しは痛いほど感じる。
彼女はきっと、
____こんな場所でこんな時に自分の状況も考えず相手の気持ちも考えず初対面の女性相手にしかも図々しくも名前呼びでましてやその女性が幽霊であるにも関わらず本能の赴くまま性的に下品な発言を平気で言ってのける恥知らずで頭の悪い変質者____
少なくともこのくらいの事は思われているんだろうな……
その証拠に首に絡む氷の指は解かれないまでも緩みが生じた。
“何もわかっていない”僕を制裁したい気持ちと“恥知らずな変質者”である僕に触りたくないという気持ちが田所さんの中で激しく葛藤しているのだろう。
だとしたらもう一押しか。
誤解は後で解くとして、僕は引きつる表情筋を強引に引っ張り上げた。
多分相当キモイ顔になっているのだろう、けど構うもんか。
僕は軽く咳払いをした。
そして、ここ一番の情熱的な笑みで彼女を見つめ、
「かわいいな、貴子、」
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
社長の受け売りなので、当然この後は“じゃあ、行こうか”と続くはずだったが、耳を劈く甲高い悲鳴が僕にそれ以上の発言を許さなかった。
『やだッ! やだッ! なんなんですか! あなたさっきから本当に気持ち悪いっ! こんな時によくもそんな恥ずかしい事が言えますねッ! この変態!』
そう吐き捨てた田所さんは、完全に僕の首から手を離し距離をとって警戒してる。
あの虫ケラをみるような彼女の目といったら……ははは、よし成功、計画通り。
ああ、だけど、ちょっと悲しい。
「あの、田所さん。違うんです、気持ち悪い思いさせてしまってごめんなさい。でもこれには訳があってですね、」
手を伸ばし田所さんに近づく僕。
『ちょっとッ! 気持ち悪い! 来ないでください……!』
ジリジリと後ずさる田所さん。
「待ってください、さっきの下品な発言は嘘です。あんな事思っていませんし、あなたに危害は加えません、」
『やだ! 変態! 来ないで! もうやだぁぁぁぁ!!』
「ああ、どうしよう! なんて言ったら解ってくれるんだ。誤解なんです、あなたが僕の首を絞めるから、それでつい、気持ちが色々ごちゃ混ぜに、」
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