第十四章 霊媒師 ジャッキー

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◆ 『お嬢! ご帰還になられましたか! みんなお嬢がいなくて淋しかったのですぞ!』 ピンクバンダー氏をはじめ、レキナDVDに夢中だった幽霊達が次々に立ち上がった。 『オイ、ガキんちょ遅かったナ! また道に迷ったカ!』 『お嬢の無事をサンタマリアに祈っておりました……』 『犬の散歩は楽しかったでござるか?』 『早くこっちにおいでぇ』 『ブツ……ブツブツブツ……ブツブツ……』 『お嬢がいないとつまりません』 絵里ちゃんを前に、幽霊達(みんな)表情(かお)は融点に達してデレデレだ。 『お兄さまっ! お姉さまっ! ただいまなのですぅ!』 両手を広げ駆け出す9才児は弾むゴムまりのごとくオタク幽霊達にダイブして、その中心でワシャワシャと頭を撫でられていた。 絵里ちゃんは幽霊達(みんな)のアイドル的存在なんだなぁ。 なんだかすごく楽しそうだ。 『ジャッキー氏、岡村さん、小野坂様、少々よろしいですかな?』 アイドルの握手会ならぬ、頭ワシャワシャ会にただ1人参加しない幽霊(ひと)が、僕ら霊媒師に声を掛けてきた。 ピンクバンダー氏である。 ……てか、呼び方。 “ジャッキー氏”、“岡村さん”、までは分かるけど“小野坂様”って。 『お嬢の足に驚いたようですな、』 輪の中心で手を振る絵里ちゃんに、オタ芸バリのビックリアクションで手を振り返すピンクバンダー氏は、顔はにこやかなまま話の内容を悟られないように続けた。 『吾輩も、お嬢から聞いた少しの情報しか知らんのですが……あれは母親にやられたらしい、ですぞ。しかもその傷が原因で命を失ったのです……グズッ……酷い話だ……』 母親にやられた……? その言い方は、不慮の事故でああなったとは考えにくい。 まさか……故意的に……? それって虐待なんじゃないのか……? 『よくある話です。若い母親と内縁の夫。お嬢は虐待されていたのです。その日常的な暴力がエスカレートしたのでしょう。最後は……風呂場で……』
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