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ひりつくような沈黙が流れる。
ピンクバンダー氏は、力無く項を垂れて乱雑な床を一点見詰めていた。
水渦さんの正論になにも言えずにいるのだろう。
こんな姿……絵里ちゃんを大事に思っていない訳ないじゃないか。
『いいかな?』
気まずい空気を払拭するようにジャッキーさんが手をあげた。
『水渦さんの疑問はもっともだ。だけどね、今こだわるべきはそこじゃない。幽霊達が、絵里ちゃんを大事に思っているのは視ればわかる。可愛がるだけであとはどうでもいいだなんて思っていないよ。そもそもオタクは幼女と美少女を崇拝する傾向があってね、大事にしないなど有り得ない話だ。むしろ命懸けで守るくらいだよ。ねっ? ピンクバンダー氏。
……ん? ……あれ? 水渦さん? エイミーさん? ナニその目は……あっ! 今の変な意味じゃないからね! オタクとして純粋な気持ちなだからね!』
再び沈黙が流れた。
今度はなんとも微妙な空気である。
ジャッキーさんの後半の発言に、『その通りであります』と頷くピンクバンダー氏は置いといて、僕と水渦さんは、幼女だ美少女だ言われて固まってしまった。
だって……ねぇ?
『そ、それとね、幽霊達をむやみに責めたらいけないよ。だって考えてごらん? 基本、幽体は病気やケガとは無縁だろ? だから今回のように絵里ちゃんの火傷も対処方法がわからなくて当然だ。そもそも幽霊だから病院にも行けないしね。当の本人が痛みを訴えず元気なら、しばらく様子を見ようと結論付けても仕方がないよ』
そうか、言われてみればそうかもしれない。
生者の病院に連れて行った所で、視てもらう事はできないもの。
納得した僕と、救われた顔のピンクバンダー氏、そしてまったく感情の読めない水渦さん。
ジャッキーさんは優しい物言いで、誰も責めず、追い詰めもせず、声を荒げる事もせず、それぞれの立場を尊重してくれた。
明るい空気、とはいかないけど、さっきよりは柔らかくなったのを感じる。
『絵里ちゃんの火傷は腹部止まりだ、まだ間に合う。まずは二度と憑依をさせない事。このまま憑依を続ければ近いうちに幽体全体が火傷の傷に覆われてしまう。もしそうなったら、』
ジャッキーさんはここで言葉を止めた。
固定の笑顔がピンクバンダー氏を真っ直ぐに捉えるも、なにやら言い淀んでいるようだ。
数瞬の間を置いて、続く言葉は残酷なものだった。
『そうなったら絵里ちゃんは、間違いなく悪霊化するよ』
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