第十四章 霊媒師 ジャッキー

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そう長くない間をおいて、薄れてきた白光の中から、眠たそうな絵里ちゃんが姿を現した。 どうだろう……? 火傷はちゃんと治っているだろうか……? ドキドキしながら少女の足に目をやると……ああ……ダメだ……! 僕は落胆した。 本気で全回復を目指して言霊を唱えたのに、そこまでには至らなかった。 「ごめん、絵里ちゃん。僕の霊力(ちから)不足だ」 僕がそう言った数秒後、ドッと歓声が上がった。 『お嬢の足が細く戻りましたぞーーっ!』 『岡村殿ぉぉぉ! お見事でござるぅぅぅ!』 『アンチャン、やりおル! 最高ですダヨーー!』 『サンタマリアも感謝しております……』 『うわぁん、お嬢のアンヨがきれいになったよぉ』 『ボソボソボソ……ボソ……ボソボソボソォォォォッ……!』 『お嬢……! こんな日が来るなんて……!』 いや、ちょっと待ってください。 完治してないのに、そんな風に言われると……返って申し訳ない。 『わぁ……足が軽い……すごい……すごい……! すごいのですぅ! お兄さまはお医者さまだったのですね? ドクター、治してくれてアリガトなのです! 嬉しいよぉ!』 ぴょんぴょん跳ねる絵里ちゃんは大興奮で『足がボコボコしてないのです!』と大はしゃぎだ。 足が軽いか、それだけでも楽になれたのかな。 そうだといいな。 僕の癒しの言霊は、火傷の完治は叶わなかったものの、表面にびっしりと張り付いていた不揃いな水ぶくれのすべてを取り去る事ができた。 皮膚はまだ赤い薄皮が痛々しいけど、先程までの巨大化した足に比べ随分とすっきりしている。 できる事なら、もう一度癒しの言霊を使って焼けた赤い皮膚を治してあげたい。 だが今度こそ、僕の霊力(ちから)はスッカラカンで時間が必要だった。 『エイミーさん、よく頑張りましたね。充分ですよ。さあ座って、少し身体を休めてください』 ジャッキーさんの労いの言葉に僕は少しホッとした。 少しは役に立てたと思っていいよね? 『絵里ちゃんを悪霊化させない為に、今度は絵里ちゃんにしかできない事をお願いするよ。淋しいかもしれないが、二度とディニエルに入り込んではダメだ。絵里ちゃんはまだ子供で霊力(ちから)が弱いから、ディニエルを動かすには身を削らなくちゃいけない。無理を重ねると、反動で治った水ぶくれが再発し、火傷も更に広がっちゃうからね』 優しく諭すように言い聞かせるジャッキーさんは、まるで学校の先生のようだった。 絵里ちゃんは淋しそうな顔をするものの素直に頷いている。 言う事を聞いてくれるのはありがたいけど……無理してないだろうか? ピンクバンダー氏の話だと、絵里ちゃんは黒十字様の事が大好きなんだよね。 今日だってディニエルさんに入り込もうとしていたのに、ちゃんとサヨナラも言えず二度と話ができなくなって、気持ちの整理はつくのかな? 「岡村さん、余計な事を考えていないでしょうね?」 座り込む僕の隣で、背中をさすってくれるでもなく、ただ弱った後輩を凝視するだけの先輩霊媒師が声を掛けてきた。 てか、余計な事って……やっぱり人の心が読めるんじゃないだろうか? 「ご心配なく。ちょっぴり考えましたけど、絵里ちゃんにとって憑依をやめる事が一番良いんです。かわいそうだけど諦めてもらうしかないんだ。ただ9才の子供の割には、聞き分けが良すぎるというか……駄々をこねるでもなく素直すぎるなぁって」
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