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「絵里さんの為なら滅んでも良いと……そうですか。では遠慮なく、」
ジュッ!
ジュッジュッ!
言うや否や、水渦さんの指から蒼い矢が放たれた。
なんで!?
確かにムーンラビット氏は滅んでもいいと言ったが、いきなり撃つなんてどうかしてる!
もしかして水渦さんのバイオレンスな九面(ほぼほぼ占めてる)が出てきてしまったのか!?
先輩霊媒師の意図がわからず、ムーンラビット氏を助けようにも一瞬すぎて、僕は成す術がなかった。
『あひょーーーーーーーーーーーッ!!!』
ムーンラビット氏の奇声が響くのと同時、
ダン!
ダンダン!
3本の矢は、氏の両頬と頂頭部を掠めると、後ろの壁に突き刺ささり煙を上げた。
『『『『……『『『ムーンラビット氏ぃぃぃぃぃぃ!!!』』』……』』』』
『うさぎ兄さまぁぁぁぁ!!』
幽霊達と絵里ちゃんの絶叫がこだまする。
標的にされたムーンラビット氏はというと、生まれたての小鹿が酒を一杯引っ掛けたような不安定さで揺れているも、彼はその場から逃げもせず踏みとどまっていた。
口角の片方だけを微妙に上げた水渦さんが、値踏みするような目でムーンラビット氏を凝視する。
「どうやら、あなたの覚悟は本物のようですね」
水渦さん……?
もしかしてムーンラビット氏を試したんですか……?
ちょっと、それ乱暴すぎだから!
確認したいなら他にもたくさん方法があるでしょうよ!
はぁ……この人、いつもこんななの?
休みの日とか僕らがいない時、この性格でトラブル起こしたりしてないかなぁ?
なんだか心配になっちゃうよ……
『あ、あ、あ、あた、あた、あたりまえ、なので、あり、あり、ありますぞぞぞぞ! ほ、ほ本当に撃ってもかまいませぬ! お、お、お嬢をお助けくださいぃぃ!』
ダクダクと汗を落とすムーンラビット氏は、『ここを狙うでありますぅぅ!』と自分の心臓を震える指でさした。
動いたのはその直後だった。
撃たれ損ねたムーンラビット氏を中心に、絵里ちゃん以外の幽霊達が弧を描くように水渦さんの前に立つ。
そして『我らの覚悟も本物だ!』と、迷いない表情で自分達の心臓を指さした。
「ご立派ですこと」
幽霊達の覚悟にかける言葉にしては随分と軽い……が、水渦さんの指に次の矢のチャージはなく、心なしか機嫌も良さそうだった。
『ハイ、そこまで! 水渦さん、ちょっとやりすぎですよ』
見かねたジャッキーさんに窘められた水渦さんは、棒読みで「すみません」とだけ言うと、スッと後ろにさがった。
あとはリーダーに任せるといった意思表示なのだろう。
『みなさん、ウチの小野坂がすみませんでした。決して本気で滅ろうとしたんじゃないんです。許してあげてください。
ですが幽霊達の絵里ちゃんを想う気持ち、ガンガン伝わりましたぞ……あっぱれ!』
『ふぅーーーーー』と息を吐き、脱力する幽霊達の真ん中で、まだまだ足は震えているものの、胸を張るムーンラビット氏。
矢が頭を掠めたせいか、自慢のツインテールの分け目は大きく広がっていた。
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