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『まずは準備だ。この部屋にはたくさんのお宝があるからねぇ。道中を楽しくする素敵アイテムが選び放題だよ。いくつかチョイスして黒十字様にご提供いただこう』
依頼者の部屋にある私物を、まるでショッピングをするかのように見て回るジャッキーさん。
時折、『コレ! 生産数限定フィギュアじゃないの! シリアルナンバーは……超若番! 自分も欲しかった……ぐぬぬ』とか『このガレージキット、もしかして完全自作? クオリティ高っ!』とか盛り上がっている。
一通り見終わると、そのままクローゼットへと向かい、毛布をかぶる黒十字様の肩をたたいた。
『黒十字様、少々お話ししたい事があります。ヘッドホン外していただけますか?』
びっくぅ!!
釣り上げられた魚くらいの跳ねっぷりで身を震わした黒十字様は、恐々とヘッドホンを外し、
「ああ、びっくりした……ど、どうした? もしかしてお祓い完了したのか?」
それでもまだクローゼットから出ようとはせず、ディニエルさんをしっかり抱えたまま様子をうかがっている。
『お祓いの進捗は8割完了といったところです。ご安心ください。この部屋に憑いている幽霊達は一人残らず成仏に同意しています。そこで黒十字様にお願いがありまして……』
「本当ですか! じゃあこれでポルターガイストに悩まされなくて済むんだな! はぁぁぁぁ、良かったぁぁぁ。本当にありがとうございます……!」
右手にディニエルさん、左手指先でジャッキーさんと握手を交わす黒十字様は、そりゃあ嬉しそうだった。
『黒十字様、まだすべてが終わった訳ではありません。この部屋には総勢25人の幽霊達がいて、これから黄泉の国に送り出します。それが済めば、』
「25人!? 今25人って言った!? そんなにいたのかよ……怖っ……! 志村さん、早くそいつら追い出してくださいよ! 成仏だか消しちまうんだ知らないけど、人の部屋に勝手に住みやがって……!」
ジャッキーさんの説明を遮って一気に捲くし立てた黒十字様の気持ちは分からなくはない。
それだけ不安で怖い思いをしたのだろう。
だが今はまだ、この部屋にはオタク幽霊達と絵里ちゃんがいるのだ。
彼らとしては危害を加える気はまったくなかったし、それどころか幽霊達、黒十字様の事が好きだった。
それがこの発言である。
幽霊達はすっかりしょげてしまった。
『我々、うるさかったのであります……』
『白チョイスのDVDが神すぎたのでござるよ……それでつい騒いでしまった……』
『ケツホールの小さい男ネ! ダケドちょっとショックですダヨ……』
『サンタマリアも申し訳ないと思っております……』
『なんで白には私らの声が聴こえないんだろう、聴こえていればこんなコト言われないのに……』
『ボソボソボソ……ボソ……ボソボソボソボソ……ボソボソボソボソ……』
『みんな白殿を責めてはいけませんぞ。悪いのは我々だ……』
『にぃに……ゴメンナサイなのです……』
ああ……視ていられない。
よっぽど黒十字様が好きなんだろうな。
みんな死にそうな顔してるよ(だからもう死んで、ry)。
「早く追い払ってくれ!」と繰り返す黒十字様、それを聞いてますます落ち込む幽霊達と幽霊のお姫様の間で、ジャッキーさんは困ったように肩をすくめた。
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