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田所さんと僕を繋ぐ電流を切り離した。
繋いだままだと、さっきみたいな転倒事故に繋がるかもしれないからだ。
光源は四散した電気の欠片が、まだいくつか点在してるので問題は無いだろう。
田所さんはさっきより少し落ち着いてきたみたいだけど、まだ完全に話せる状態ではない。
焦らせてはいけない……今はただ待つことしかできない僕は、現場に来る前、放電の研修中に社長に言われた事を思い出していた。
“他にも応用できる事はたくさんあるぞ”
社長、とりあえず懐中電灯代わりにはなりましたよ、僕はひとり小さく笑う。
他にもか……あとは一体どんな事ができるだろうか?
◆
田所さんに背を向けて一心不乱に手先を動かしていた僕は、最初彼女に声を掛けてもらっていた事にまったく気が付かなかった。
何度目かの声に僕がやっと振り返ると、少し離れた場所でしょんぼりと肩を落とす田所さんが言った。
『あの……私、落ち着きましたから……いろいろ迷惑かけてしまってごめんなさい』
「あ、いや! 僕の方こそ声を掛けてもらってたのに気付かなくってごめんなさい!」
『そういえば、さっきからなにをしているんですか……?』
「ああ、えっと、僕は高校生の頃だけですが美術部に入っていまして。あっ、だからといってそんなに手先が器用という訳じゃないのですが……」
美術部=手先が器用とハードルが上がらないように、慌てて予防線を張った。
田所さんはポカンとした顔で僕を視る。
『なんの話でしょうか……?』
「えっとですね、田所さんは今が何月かご存知ですか?」
『今? 今は……8月、ですよね?』
やっぱりそうだよな、田所さんは永遠の8月に留まっているんだ。
「いいえ田所さん、今は3月です。まだ肌寒い日もあるけど外の桜はもう七分咲きで、もう春なんですよ」
『3月……? 春……? 桜……?』
「そう春です。田所さんは桜の花は好きですか?」
『……好きです。近所の商店街の道……そこが桜通りになっていて、昔はそこを娘と一緒に手をつないで歩いたんですよ。娘が私に“お花きれいだねぇ”って嬉しそうに言うんです……あの頃は楽しかったなあ……』
潰れた顔に表情は浮かばない。
それでも娘さんとの楽しかった思い出に浸る、お母さんの気持ちは痛いほど伝わってきた。
「そうですか……桜には楽しい思い出があるんですね、良かった。田所さん、そこで見ててもらえますか?娘さんと見た桜よりは劣ると思うけど、」
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