第十四章 霊媒師 ジャッキー

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◆ それから更に2時間。 ジャッキーさんの愛情カップ麺で腹の膨れた僕と水渦(みうず)さんは、あろうことか仕事中に寝落ちした。 「んも……大福ぅ……」 「清水……シネ……」 お互いの寝言で目を覚ました僕達は、痛む身体をさすりながら(水渦(みうず)さんは悪態もついていたよ!)ノロノロと起き上がる。 我らがリーダーは、ダメ部下2人の起床に気が付くと、『おはよ、よく寝てたから起こさなかったんだ』と怒りもしない、神か。 ああ、もう、この人には頭が上がらないよ。 ジャッキーさんも眠いだろうに、本当にすみませんでした。 だけど眠れたおかげで頭はだいぶスッキリしている。 普通に寝る5時間よりも、寝落ちの2時間の方が眠りが深いんだろうな。 しかし我ながら幽霊達がトンツートンツーうるさい中よく眠れたよ……あ、でも今は静かじゃない? さすがにみんな喋り疲れたのだろうか。 まだちょっとだけ眠い目を擦り、黒十字様と幽霊達(みんな)の様子を視てみると、 「もっと早くに、こうなれたら良かったのにな」 そう言ってベッドに転がる黒十字様が、なんだかとても淋しそうに見えた。 ベッドのまわりには絵里ちゃん含む総勢25人の幽霊達がいて、やはり淋しそうに眉を寄せている。 『そうですなぁ。(はく)の傍にいるだけでも十分楽しかったでありますが、やはり意思疎通が出来ると出来ないとでは全く違いますな』 ピンクバンダー氏の呟きに、幽霊達(みんな)しんみりと頷き合っていた。 ベッドで仰向けになっていた黒十字様が、両手を天井に向かって伸ばした。 手指を広げたまま、何かを探しているようにヒラヒラと動かしている。 「なぁ、みんな。俺の手に触れてみてくれないか? たぶん分からないだろうけど、最後にさ、握手というか、まぁ、そんな気分なんだ」 と照れたように笑った。 ____ダンダー ダーダンダーダーダー ダーダーダーダンダー その音は、さっきまでの思い切り床を叩いていたのとまるで違う。 静かで、それでいて柔らかい。 「“イエス”か。へへ、なんか恥ずかしいな。あ、待って。俺、ちゃんと起きるから」 モゾモゾと起き上がった黒十字様はベッドの上で正座をすると、トレーナーのおなかの部分で両手をゴシゴシと擦り始めた。 それを見た幽霊達も黒十字様にならって手をゴシゴシ。 さらにそれを視た絵里ちゃんも、ワンピースでゴシゴシしようとしたのだけれど、ムーンラビット氏がセーラー服の赤いリボンで優しく拭いてあげていた。 なんか、お母さんみたいだな。 ふわりふわりと、オタク幽霊達が黒十字様に近づいていく。 前に、横に、上にと、25人もいるものだから、集まりきった頃には黒十字様の姿は、すっかり見えなくなってしまった。 ____小生、(はく)殿を忘れませんぞ、 ____幅広いジャンルに通じていたでござるな、 ____世界でニ番目にイイ女はチャイニーズネ、一番はガキんちょアル、 ____(はく)様にサンタマリアのご加護があらんことを、 ____ウチらがいなくなっても元気でね、 ____ボソボソボソ……ボソ……ボソボソボソ…… ____少しずつで良い、強くなってください、 ____(はく)、ありがとう、 ____楽しかった、 ____感謝、 ____ ______ _________にぃに、 幽霊達が団子のように重なったその奥から、絵里ちゃんのキャンディーボイスがまぎれ聞こえてきた。
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