第十四章 霊媒師 ジャッキー

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とそこに、この現場の紅一点。 水渦(みうず)さんが落ち込む依頼者にズンズンと近付いた。 きっと……ぶっきらぼうでも優しい言葉の一つでもかけるつもりなのだろう。 黙ってそれを見守っていると、水渦(みうず)さんは、社用タブレットの画面を開き、黒十字様に見せながらこう言った。 「黒十字様、さっそくではございますが、お会計をさせていただきます。 まず、基本出張料、霊媒師1人につき5千円。 ですが今回、岡村の分の出張料金は、諸事情により減額させて頂きますので合計1万円。 ポルターガイスト現象を引き起こす幽霊1体除霊につき1万円、今回25体でしたから25万円。 ポルターガイスト現象が起きている場所はこの部屋のみでしたのでプラス8千円。 すべて合わせますと、26万8千円になります……が、弊社ご利用初回の感謝特典として、合計金額が20万円を超えた場合に適応になる2万円割引クーポンが使えます。 最終的に、24万8千円となりまが、お支払いはカードですか?」 優しくなかったー! 確かにお会計大事だけどさ、その金額で間違いないけどさ。 しんみりと落ち込んでいる人に、間髪入れずにお金の話って……せめてあと5分くらい待っててあげれば良かったのに。 案の定、黒十字様は口をパクパクさせているじゃないの。 「あ、あの、そ、そんなにするの?」 「はい、弊社ホームページをご覧になってますよね? 料金表にも記載がありますし、電話を頂いた時もご説明してるはずです」 「あ、うん、料金表は見たし、説明も聞いたけど……ホラ、まさか25人もいると思わなかったから……はは……はははは……こりゃ、早いトコ、引きこもり卒業しないとだなぁ、」 容赦ない水渦(みうず)さんの正論に、タジタジの黒十字様だが、どさくさに紛れ、前向きなコトを呟いたのを聞き逃さなかった。 引きこもりを卒業しないと、って言っていたよね。 オタク幽霊達に言われてた、『ゆっくりでいい、強くなってください』というのが効いているのかもしれない。 『いよいよ本気出すんですね』 おどけたようなジャッキーさんが、黒十字様の前に躍り出る。 「うん、本当はまだ外に出るのが怖いけど……だけど、いつまでもこのままじゃダメだよな……わかっちゃいるんだ……これはキッカケなんだ。ここで頑張らないと、もう二度と社会復帰できないような気がして……」 『そんな気になれたのは、やはり幽霊達(かれら)の影響ですか?』 「……ああ、うん。そうかもしれない。楽しかったんだ。何年か振りに人とコミュニケーションとって、レキナの話で大笑いしてさ。それと俺の作った馬が、アイツらの役に立ったのが、すごく嬉しくて。今このテンションなら、少しだけ勇気が持てるかなって。ああ、でもやっぱり自信ないな。この年でどっかでバイトしてさ、年下に頭下げて仕事教えてもらうとか……怖いよ……恥ずかしいよ……ははは……ダメだ……想像しただけで心が折れる。やっぱ俺、口ばっかりだ。忘れてくれ、無理だわ。だって見てくれよ、手が震えてる、」 最初の勢いはどこへやら。 途中から声も震え始めた黒十字様は、俯いて黙り込んでしまった。 なんて声をかけたら良いのだろう? わからないまま沈黙が流れた。 そこに。 やれやれと肩をすくめるジャッキーさんが、一歩前に出た。 『(はく)よ……力が欲しいか……?』 ちょ、ジャッキーさん、こんな時にふざけないでください。 それ、漫画のセリフでしょう? 『(はく)よ……変わりたいか……?』 ジャッキーさんの問いかけに、黒十字様はグイっと眉間にシワを寄せた。
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