第十四章 霊媒師 ジャッキー

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再び目を覚ましたのは、そこから2時間後の午前8時。 床で寝落ちした僕と水渦(みうず)さんには、黒十字様の毛布が掛けられていて、テーブルの上にはコンビニの袋が置かれていた。 「あ、起きたか、おはよう。2人もゴハン食べるだろ? コンビニで適当に買ってきたから好きなの食べてよ。飲み物もあるからさ」 開けたままのカーテン。 窓から入り込む朝の光が、乱雑な部屋と黒十字様の姿を照らしていた。 クローゼットから出た黒十字様は、立ち上がると長身で、伸ばしっぱなしの長髪を後ろでひとつに結んでいた。 目の下のクマは昨日のままだけど、切れ長の目に通る鼻筋、細い顎。 細身の身体と相まって、全体的に中性的な雰囲気だ。 てか、ちょ、黒十字様、改めて見たら美形じゃないですか。 同じオタクでもピンクバンダー氏やムーンラビット氏とは全然タイプが違う。 「志村さんに付いてきてもらって、俺、コンビニまで行ってきたんだ。いつもなら外に出ようと決心してから玄関出るまで、少なくとも半日はかかるのに、今朝は30分で外に出れてさ、最短記録だよ。へへ、頑張っただろ? さぁ、食べて! 俺のオゴリだからさ!」 近所のコンビニに行くのだって、黒十字様にしたら大変な事だろうに。 だがその顔は明るかった。 「早寝早起き、野菜多めで腹八分、部屋を片付け掃除洗濯、適度な運動、週2回からのアルバイト、夜更かし禁止、ネットは1日1時間……これはちょっと交渉しないとだな。 俺、志村さんと約束したんだ。結果を焦るんじゃなくて、ゆっくり確実に頑張るって。K市のボランティア団体にも連絡する、カッコつけないで助けてもらうんだ」 そう言って笑う黒十字様は、なんだがとても穏やかだった。 昨日、怒鳴り散らしていた険のある顔とは、まるで違って見えた。
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