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眼前に広がる満開の桜の花に僕は跳ね起きて出来を確認する。
僕の桜に幹はないけど、闇に浮かぶ発光の花は遥か向こうまで咲き溢れていた。
放電したこの場所から360度、どこを見ても桜、桜、桜……ライトアップされた夜桜のような仕上がりだ。
造っておいた電気の桜は百輪弱、これを元に同じものを放電時に複製し宙に放す。
電気のコピー&ペーストだ。
イメージだけでうまいくか心配だったけどなんとかなった。
僕の直線距離での最大飛距離は約1m、でもこれなら桁違いに距離が伸びる。
社長や先代がが見たら褒めてくれるだろうか……?
褒められたいな。
エイミーすごいじゃないか! この見事な満開の桜って……いや、桜は言いすぎか。
近づいてよく見ると花の形は不揃いだし、色が少し濃いかもしれない。
だけどまあ、目を細めればおおよそ桜と言えなくもないから総評60点と行ったところか。
質より量な感じは否めないが、田所さん喜んでくれるといいな……
僕の数メートル先にいる田所さんは、右に左に忙しく顔を動かしていた。
時折『なんで? どうして?』の声が混じり、桜の花に触れようとしてるのか、細い腕を懸命にのばしている。
爪先立ちの彼女の指先がやっと一輪の花を捉えた。
途端、その花は蛍のように仄かに光る。
幽霊と電気の桜が接触すればそうなるのは当然だが、知らない彼女は一瞬驚いて手を引っ込めると、慌てて僕に振り返った。
僕は彼女に笑って見せる。
彼女は何か言いたげに数瞬僕を見つめたが、またすぐに前を向き、指先を桜につけては光らせて引っ込めて、それを何度も何度も繰り返していた。
良かった……田所さん、楽しそうだ。
どのくらいそうしていたのか。
僕は仰向けに寝転んで、静かにはしゃぐ田所さんを眺めながら時折指先から放電し、桜の花が散らないようにメンテナンスを行っていた。
会社建物を守る蔦の結界。
あれを思い出した僕は一か所起点を決め、そこから電気を補充していた。
そんなに補充はいらなそうだけど念の為。
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