第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆ 「それではみなさん、神奈川の現場無事完了おつかれさまでした! 年長者が長話するのはいただけないからね。短いけど堅苦しい挨拶は抜きとういコトで、乾杯!」 ジャッキーさんの短い挨拶で、3人だけのささやかな打ち上げが始まった。 飲み物は、お酒の飲めない僕と、いくら飲んでも酔わないので、酒代が勿体ないという謎理論の水渦(みうず)さんはウーロン茶を。 ジャッキーさんは焼酎の水割り、梅干し入りだ(渋ッ!)。 「なんかすみません。まさかこんなに豪華なゴハンを作ってくれると思ってなくて……一人で大変だったんじゃないですか? それに材料費もかかったでしょう? ちゃんと請求してくださいね」 ローテーブルに並ぶご馳走の数々に、恐縮しきりでお伺いを立てる。 昨日、ジャッキーさんと電話での打ち合わせでは、当初宅配ピザでも頼みましょうか、という話で決まりそうになっていた。 が、普段から自炊をするジャッキーさんが、 『連続で現場入りしたせいで、冷蔵庫の材料がムダになりそうなんだ。もし良かったら、自分がなにか作るから食べちゃってくれないか?』 と話を持ち掛けてくれたのだ。 だったら一緒に作りますよと言ったのだが、『オジサンの簡単料理だから手伝いはいらないよ』と笑っていたのを、そのまま受け止めてしまったのだが…… 「ジャッキーさんのゴハン、“オジサンの簡単料理”の域を超えてます! 本気で美味しいです! 毎日食べたいくらいです!」 もうね、ビックリした。 お世辞抜きでおいしいんだもの。 まずいただいたのは、圧倒的な存在感のビーフシチュー。 これがすごかった。 口に入れた途端とろけてほどけるブロック牛、大きくカットされたゴロゴロ野菜とマッシュルーム、とろみのあるデミグラスソースに、きざんだパセリが主張しすぎないアクセントになっている。 これだけ濃厚なのにくどくないってナニ? そして鼻に抜ける微かな香りはバターだろうか? 一口食べるごとに、幸せのため息が漏れてしまう。 でもってキッシュ。 僕もたまに作るけど、具材はいつだってほうれん草とベーコンだ。 それ以外のレシピは勇気がなくて挑戦した事がない。 ところがジャッキーさんのキッシュは、紫玉ねぎとハムとサツマイモだったのだ。 曰く、冷蔵庫のあまりものを入れただけとの事だが、ハムの塩気とサツマイモの甘味、そしてホクホクの触感が、甘いもの好きの僕としてはたまらなく好みで、絶対にレシピを聞いて帰ろうと決心したほどだ。 そしてサラダ。 これまたジャッキーさん曰く、「これで冷蔵庫がスッキリしたよ!」なのだが、レタスに水菜にブロッコリー、ピーマン、ニンジン、キュウリにトマトのたっぷり野菜がシャキシャキでおいしいの! ドレッシングも市販のモノではなく、お手製のオリーブオイルベースのあっさりレモンドレッシングを出してくれた。 もう最高です! 今日、来て良かった! ゴハン、甘えて良かった!
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