第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆ 「自分は昔からジャッキー◯ェンが大好きだったんだ。小学校時代はチビでひ弱のいじめられっ子でねぇ。そんな時、彼のアクション映画を見て元気を貰っていたんだよ」 そうだ、ジャッキーさんは言っていた。 世界的大スター、ジャッキー〇ェンを崇拝してるって。 「中学高校になると自分の身長もずいぶん伸びてね。それと同時に周りも恋に部活に勉強にと忙しくなってきて、いじめられる事はなくなった。だけど、学校生活が平和になってもジャッキー愛は衰え知らずで、中国拳法教室に通ったり、機械体操部に入ったり、とにかく身体を鍛えたんだよ」 それでか……素人の僕が視たって、ジャッキーさんの演武もアクロバットも素晴らしかったもの。 「高校を卒業してから最初の1年は、掛け持ちバイトでお金を貯めて、その後の1年は日本と中国を行ったり来たりしながら拳法の修行をしてたんだ。あの頃の自分は本気でジャッキー◯ェンになりたかったからね。 本格的に日本に戻って、見つけた仕事はスタントマン。これは自分にとって天職だったよ。どんなに危険なシーンだって『ジャッキー〇ェンよりイージーモード』と思えば怖くなかったしさ」 あぁ……確かに、あの大スターは、絶対に保険加入できないだろ? ってくらいの激しさだからねぇ。 「仕事は忙しかったよ。たくさんの映画やドラマのスタント、それからゲーム会社からの依頼でモーションキャプチャーもやった。戦隊ヒーローのスーツアクターだけは、自分の背が高すぎるという理由で出来なかったけど、アクション指導に駆り出される事も数回あってね。あの頃は本当に楽しかったし充実してた。なんせ好きなコトを仕事にできたんだから」 好きなコトを仕事に……か。 出来たらそりゃあ幸せだけど、なかなかそうはいかないよね。 当時のジャッキーさんは、夢を叶えていたんだな……ちょっぴり羨ましいや。 「スタントマンをしてた頃。いや、それ以前から幽霊とはまったくの無縁でね。仕事で地方に行った時、幽霊の出るホテルに泊まった事もあったけど、夜はヘトヘトですぐに寝ちゃうだろう? 絶対に出ると言われた部屋に泊まっても何も視えなかったんだ。だから幽霊なんて信じてなかった」 僕と同だ……僕の場合、視えていた幽霊に気が付かなかっただけだけど、やっぱり霊の存在なんて信じていなかったもの。 「ずっと続けるつもりだったんだ。年を取っても、最高齢スタントマンとして記録を作るのを目標にしてた。真面目に仕事して、ジャッキー◯ェンに恥じないよう、健全な心を保つべくストイックな生活を送ってた。……だけど人は、いや、自分は思った以上に弱かったんだ。 33才の夏、カーアクションのスタントの日。スタッフが爆薬の量を間違えちゃってねぇ。ははは、時速100キロでセットに突っ込んだ途端、予定を上回る大爆発。すぐに救出されたけど間に合わなくてさ。呆気なかった。一瞬でいろんなモノを失くしてしまった。スタントマンという仕事も、やりがいも、目標も、収入も、それと膝から下の両足もね」 え……? 両足を失った……? じゃあ、今のその足は……義足……?
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