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なんと言って良いものか、分からないまま数舜の時が流れた。
相変わらず水渦さんは無表情で、ジャッキーさんの言い付け通りにサラダを食べている。
「あ……っと、ごめんね。気を遣わせるつもりで話したんじゃないんだ。ただ、霊力の無い自分が、黄泉の国のはからいで霊能力者になった経緯を説明するには、外せない話だったんだよ。せっかくの打ち上げに、暗い話をして申し訳ない、」
困ったような顔で頬に手をやるジャッキーさんに、水渦さんが言った。
「構いません、続けてください。暗い話は聞いていて楽しいです。個人的に人の幸せな話の方が不愉快ですから」
ちょっと……それはそれで問題アリだと思いますよ?
でも、
「ジャッキーさんが嫌でなければ話してください。僕、ジャッキーさんの事、もっとよく知りたいです」
あれだけの霊力を視せられて、霊能力者ではないという矛盾。
ジャッキーさんが乗り越えた過去に関係あるのなら、それを聞いてみたい。
「そう。じゃあオジサン、若者に嫌われないように短めに話すから、もう少しだけ付き合ってもらおうかな?」
空になったグラスに氷を足し、焼酎と水をを注ぐ。
マドラーでかき回し一口飲んだジャッキーさんが、その続きを話してくれた。
「事故の後は数ヶ月入院したかな。その間、爆薬の量を間違えたスタッフが毎日謝りに来たんだ。大部屋だったのに部屋に入るなり土下座だもの。あれには参ったよ。
だけどねぇ、震えながら床に這う彼の頭を見てたら、なんだか笑えてきてねぇ……や、うん、わかってる、決して笑うトコじゃなかったんだけど、両足切断されて変なテンションになってたんだ」
変なテンションって……
当たり前だけど相当辛かったんだろうな。
辛すぎて、喜怒哀楽スイッチが混線しちゃったんじゃないだろうか?
「笑うだけならまだ良かったけど……酷い事をたくさん言ってしまった。『あなたの不注意でこんな事になってしまったんです。土下座は結構ですから、今すぐ足を返してくれませんか』とかね、
あーーーーっ! 何度思い出しても自分が恥ずかしいよ! あんな事を言ったって足は戻らないし困らせるだけなのに! ぶっちゃけ他にももっと酷い事を言ったんだ……あの頃、自分に余裕がなくて……」
思い出し悶絶をするジャッキーさんに、「状況的にそれは仕方ないですよ」と声を掛けるも、効果はなかった。
そこに水渦さんが追い打ちをかける。
「そんなに酷いですか? 私なら『オマエの両足をぶった切って出直してこい』くらい言いますけどねぇ。志村さんは人が良いです」
そ、そうですか……いや、それくらい言ってしまっても仕方のない状況だとは思いますが……水渦さん、ちょっと黙りましょうか。
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