第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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毒舌な先輩を黙らせるべく、僕はバスケットのパンを取ると、たっぷりのマンゴージャムを塗って水渦(みうず)さんに手渡した。 彼女はそれを素直に受け取り、黙々と食べ始め……ヨシ! 静かになったぞ! 「入院中はまだ良かったんだ。不自由さは慣れない病院生活のせいにできたからね。毎日早く退院したいとそればかり願っていた。だけど……本当に辛かったのは家に戻ってからだったんだ」 どうして……? 住み慣れた自宅に戻った方が気が楽になるんじゃないのかな……? ジャッキーさんに僕の疑問をぶつけると、 「住み慣れた家だからこそだよ。事故の前は普通にできていた事のほとんどができなくなってしまった。足が無いから当然、歩く事ができないだろう? そうなるとトイレも風呂も1人では無理。家族に介助してもらうんだけど……膝から下が無い、身体の大きな自分の介助は大変だったと思うよ」 そう言って淋しそうに笑った。 実家暮らしのジャッキーさん。 当時、個人の部屋は2階にあったそうだ。 気兼ねないはずの実家、その中でも一番心休まるはずの自室には、自力で階段を登れないがゆえ、そこで寝起きする事はできなくなった。 自分で立つ事ができないジャッキーさんを、ご両親と妹さんの3人で階段含め移動させるのは難しい。 まして、トイレや風呂のたびに家族の手を借りなくてはならなくなったのだ。 そうなると、家族の負担を少しでも軽くする為には、トイレ、風呂場、キッチンに一番近い1階のリビングで過ごさざるを得なくなる…… 「仕方のない事だけど……一日中リビングで過ごさなくちゃいけないのがストレスになってね。かといって自分の介助をする家族はもっとストレスだろうから文句も言えない。 昔から好き勝手やりたい事をして、ほとんど家に帰らなかった息子が、ある日突然大ケガをして、無職になって、毎日家にいるんだもの。お互いのストレスは日に日に大きくなって、だんだん空気がおかしくなってきたんだ」 残り半分になった焼酎を一気に煽り、空になったグラスに新しく水割りを作るジャッキーさん。 さっきよりも焼酎の割合が多くなっていた。
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