第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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言いながら嬉しそうに義足をさするジャッキーさん。 僕の作った薄い水割りを飲みながら、続きを話してくれた。 「家族は喜んだよ。リハビリの先生も、歩行の習得が人より早いと感心してくれてね。さすがは元スタントマンだって褒めてくれた。そう言われると単純に嬉しかったんだけど……でも自分の心は今一つ晴れなかったんだ」 どうして? 歩けるようになれば、生活も楽になるんじゃないの……? 「そうだねぇ。確かに日常生活はずっと楽になったよ。少しずつ行動範囲を広げて外に出て、歩行に自信がついてきたら次は再就職だ。いつまでも無職でいられないからね。いくつかの受けた会社の中から、事務の仕事に就いた時の家族の喜びようと言ったらなかったよ。だけどねぇ……情けない話、続かなかった、すぐに辞めてしまったんだ」 そう肩をすくめるジャッキーさんに、僕はすかさず疑問を投げる。 「なんで辞めちゃったんですか? せっかく決まった仕事なのにもったいない」 僕が霊媒師の仕事に就く前、再就職の為に受けた会社は二桁を超えていた。 そのほとんどが不採用で心は折れる寸前だった。 僕なら多少不満があっても絶対辞めないのに。 「うん、家族にも怒られたよ。いやぁ……こんな事言ったらバチが当たりそうだけど、耐えられなかったんだ。毎日同じ会社に通って、1日8時間机に向かってパソコン操作。これが当たり前なんだと何度自分に言い聞かせても、スタント時代の刺激的な毎日が恋しくてね。ビルの屋上からダイブしたり、ヘリコプターから海に飛び込んだり……身体と命を張った、あの緊張感のあった頃に戻りたくて、でもそれは出来なくて、頭がおかしくなりそうだったんだ」 ああ……そういう事か。 ジャッキーさんは、ずっと“好きを仕事”にしてきた。 それが、なんの前触れもなく突然すべてを失くしてしまったんだ。 「その後、いくつかの会社に入ったけど結果は同じ。朝どうしても起きられなかったり、起きても家から出られなかったりで結局辞めた。 家族に合わせる顔がないから、部屋から出られなくなる。出られない日が続くと気持ちはどんどん落ち込む、落ち込むとまた部屋から出られなくなる悪循環。そういった積み重ねで、気が付いた時には立派な引きこもりになっていたんだよ。ははは、笑っちゃうよねぇ」 照れたように鼻をポリポリ掻くジャッキーさんの笑顔は、すこぶる爽やかだった……けど、や、ちょ、それ笑えませんって。
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