第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「もう、家の中グチャグチャ! そりゃそうだ、良い年した中年息子がまさかの引きこもりデビューだもん、そりゃ荒れるだろ? あははは! ……って……あ、いや、もちろん家族には申し訳なかったと思ってるよ? 今だから笑えるんだ、」 と、ちょっぴり反省のジャッキーさんの前で、「ひひひ……ひひ……ひひひ」と呻くように笑う水渦(みうず)さんに若干引いてしまった僕だけど、話の続きににツッコむのは後回しにした。 「入院、退院、自宅療養、リハビリ、再就職の失敗が複数、たくさんのメニューをこなしていたらあっという間に35才になっていた。35から40まで引きこもっていたんだけど、その間にアニメ、ラノベ、漫画にどっぷりはまっていったんだ。ま、他にやる事なかったしね。必然だよ」 なるほど。 この期間に、ピンクバンダー氏や黒十字様と渡り合えるほどの、オタクへと進化を遂げたのか。 「5年間の引きこもり生活の詳細は……省略するね。ほら2人共、黒十字様を見たでしょう? 彼とほぼ同じと思ってもらえばいい」 わーお! あんな感じだったんかーい! 今のジャッキーさんからは想像がつかないよ。 「転機は40才の誕生日だった。引きこもり生活も5年。昼間は家から出ないけど、家族が寝静まった夜中から明け方にかけて、よく1人で散歩に行ってたんだ。外の空気が吸いたいというより、動かないと義足で歩けなくなっちゃうから仕方なくね。歩行訓練みたいなものさ」 昼間は家から出ない……か。 本当に引きこもっていたんだな。 それでも自主的に訓練をしていたのは偉いと思いますよ。 「あの日は少々気持ちが落ちてたんだ。スタントマンには戻れない、一般の仕事も続かない、毎日引きこもって家族に迷惑かけて、将来も暗い。とうとう40になってしまって、自分はこれからどう生きたらいいんだろうってね。考えれば考える程、辛くなって何もかもが嫌になって、それで……」 そ、それで……? 僕は黒十字様の現場で水渦(みうず)さんから聞いた、 ____ジャッキーさんは若いころに死にかけて黄泉の国まで逝って戻ってきたらしい、 というのを思い出していた。 何もかもが嫌になってって……まさか……人生に悲観して早まった事をしたのでは……? 「それでコンビニに寄って、持ってたお金で買えるだけの酒を買ったんだ」 ……ん? お酒買ったの? なんだぁ、僕はてっきり……って、いや、待て。 シラフだと怖いから、お酒を飲んでその勢いで、人生の幕を閉じようとしたのでは……? 「買った酒を飲みながら、行くあてもなくひたすら歩いたんだ。飲む、歩く、飲む、歩く。結構な量を飲んで、結構な距離を歩いて、気が付いたら人気(ひとけ)もないし、ココどこ? 状態でさ。とりあえず、帰る気にもなれなくて、目の前にあった廃ビルに入り込んだの。中は暗いわ、足元悪いわ、だけど、酔っぱらっちゃってたし、とにかく上に行くんだぁ! って階段登って屋上に出たら……そこに満天の星空があったんだ」
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